ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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経験を重ね自信に 次へ
就労支援やスタッフ育成(20/12/21)

植村 うえむら能匡よしまさ さん



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利用者やスタッフと談笑する植村能匡さん(右)=9日、宇治市宇治・さぴゅいえ
 自家農園で栽培された野菜たっぷりカレーや手作りハンバーグなどが味わえる、宇治市宇治のカフェ「さぴゅいえ」。地域の人たちがランチを楽しみに訪れる人気店で、社会福祉法人南山城学園(城陽市)が運営する地域福祉センター宇治小倉の就労移行支援事業所でもある。ここで就労支援やスタッフの育成を担うのが、同センター主任の植村能匡さん(48)だ。

 就労移行支援は、企業に就職したい障害のある人をサポートする事業で、利用期間は2年間(延長期間1年)。企業側の門戸は広がりつつあるが、まだ認知度が低いのが現状だ。「ここでずっと働き続けることはできないけれど、可能性が広がる場であることを知ってもらいたい」と植村さん。スタッフを支え、利用者に目を配り、就職の実績づくりに汗を流す。

 「さぴゅいえ」がオープンしたのは2018年7月。法人が城陽市と京都市伏見区で運営するカフェとの計3店舗の料理も作って運ぶ「セントラルキッチン方式」を取り入れ、野菜を刻んだり、料理を真空パックに入れたりする作業が、利用者の主な仕事だ。調理を通して人間関係やビジネスマナーを学んだり、自信を育んだりすることで、企業への就職につながっていく。

 植村さんは、南山城学園で障害のある人の生活介護などの支援に15年関わってきたが、就労移行支援を手掛けるのは初めて。試行錯誤しながらの運営で3年目に入り、延べ13人の利用者のうち3人を企業に送り出してきた。さらに求人のニーズに応じるために、調理部門に加えて清掃部門も立ち上げるなど、裾野を広げている。

 日頃大事にしているのは、利用者に自信を持ってもらうこと。2年間の経験に加え、実習を真面目にこなして大手企業への就職を決め、大きく変わった利用者もある。自信に満ちた表情であいさつし、「最初は自信なかったけれど、ここでの経験を生かせました。みなさんもがんばって」と後輩へのエールを送る姿を見た時は、心が動いた。「場の空気がざわざわしました。カフェのパートさんも含め、そこにいたみんなが喜びをかみしめていたと思います」

 障害がある人は苦手なこともあるけれど、工夫すればできることもある。「どういうサポートがあれば取り組めるのか、障害のことをあまり知らない民間企業にいかにわかりやすく伝えられるか、それが力の見せ所」。また、就職したら終わりではなく、その後の企業との橋渡しなど、就職後のアフターケアにも取り組む。

 主任になった今は、スタッフの人材育成にも力を入れる。「人を育てることは、利用者さんを支えること。福祉職は離職率が高い業界だと思われるが、楽しく仕事をする背中を見せたいし、関わり方一つで利用者さんがすごく変わられることを知ってもらいたい」。心がけているのは、言葉で伝えるのではなく、うまくいった時の感覚をスタッフ自身でつかんでもらうことだ。体感できる場面をこっそり作り、厳しいことを言うときは威圧感がないよう横に座ったり、三枚目を演じたりすることもある。「たくさん成功体験を積んで、福祉の仕事を楽しんでもらえるよう、影のサポートをしたい」
(フリーライター・小坂綾子)