ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

才能引き出す環境整備
障害者の芸術活動支援(21/01/18)

中島 なかじま慎也しんや さん



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利用者の制作活動を見守る中島慎也さん(右)=7日、京都市伏見区・アトリエやっほぅ!!
 たくさんの作品が掲示された広々とした空間で、知的障害のある人たちが机に向かい、作品を仕上げていく。京都市ふしみ学園(伏見区)の利用者が芸術活動にいそしむ「アトリエやっほぅ!!」。ここでスタッフのリーダーを務めるのが、中島慎也さん(59)だ。「大事にしているのは、安心安全な空間づくりと、自由な環境づくり。決まったルールを設けず、好きに取り組んでもらえるように心がけています」

 同学園の療育班として2008年からスタートしたアトリエ。現在16人が在籍し、それぞれの支援計画をもとにゆるやかに活動する。あるときは黙々と、あるときはのびのびと、時には刺激しあって取り組むアトリエには、笑顔があふれている。

 中島さんが同学園に関わり始めたのは20年ほど前。自宅で陶芸の仕事をしていたところ、非常勤講師として週1回、職員への指導を頼まれたことがきっかけだった。少しずつ勤務日が増え、週1日だったのが3日になり、常勤になり、気がつけば正職員。今はアトリエを率いるまでになった。

 「今でも福祉の専門家ではないけれど、人と関わるのが好き。利用者さんとのアートの仕事は夢があり、すっかりはまってしまいましたね」

 アート作家ともなった利用者たちは、もともとは箱折りやシール貼りなどの軽作業が苦手な人のために始まった療育班のメンバー。だが、次第に才能を発揮する人が増え、利用者の作品は国内外の展覧会に出品されるように。またコーヒーショップに展示されたり、人気キャラクターのプロデューサーに気に入られたり。イラストが市販の商品に採用されることもあり、活躍の場が広がってきた。

 「私たちスタッフがサポートをしなければ、注目されない人たちだったかもしれない。だけど、才能を発揮するお手伝いをすることで、可能性を引き出せているのがうれしいですね」。その人にぴったりの画材を探し、取り組みの様子を観察し、環境を整える。中島さんたちの支えによって、利用者は、クレヨンやアクリル絵具、水彩絵具、墨や土など、さまざまな素材を使って自分の感じたままに表現する。

 活動が広がり、活気にあふれているアトリエだが、中島さんには、一つ、大事にしたいことがある。「大きく展開しているわりに、地元にはまだまだ知られていない。地元に根ざした活動をしていきたい、という思いを強く持っています」

 19年秋から月1回、地元のコミュニティスペースで「やっほぅ!!マーケット」を開催。作品をデザインに使ったTシャツやバッグ、レターセットやクリアファイルなど、雑貨を販売し、好評だ。また、地元の小学生を対象にしたTシャツ作りのワークショップなども開いてきた。現在は新型コロナウイルスの影響で開催できていないが、再開できる日を待っている。

 「利用者さんたちが表現する世界は本当に奥深く面白い。私たちは『代弁者』であり、ご縁をつなぐのが仕事。彼らの作品と人柄の魅力を、地域や社会に広く発信していきたい」
(フリーライター・小坂綾子)