ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

負担軽減へ バランス良く
障害者と家族を支援(21/06/15)

中西 昌哉なかにし・まさやさん



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「イマジン」で利用者との時間を楽しむ中西昌哉さん(右)=京都市伏見区
 障害のある人の支援を中心にしつつ、その家族のために、何ができるのか―。こんな視点で、障害福祉サービス事業に取り組む人がいる。京都市伏見区で障害者デイサービス「べテスダの家」、地域との共生を目指す拠点「イマジン」を運営する社会福祉法人世光福祉会理事で、2拠点の統括責任者・中西昌哉さん(57)だ。「利用者さんごと、ご家族ごとに事情があり、必要とされることも違う。できる限りそれに合わせる中で、多様な支援が生まれてきました」

 事業の始まりは1983年4月。同法人が運営する世光保育園の英語教室に通う障害のある子を支えたいという思いからだった。無認可共同作業所からスタートし、デイサービス事業や家族支援のための宿泊援助、グループホームの運営など、家族らの声を聞きながら事業を拡大。現在は、主な利用者約30人とその家族を、約60人のスタッフが支え、個別支援と家族支援を柱にサービスを提供している。

 中西さんの入職は86年。京都YWCAで活動する母親の影響でボランティア活動に取り組むうち、「弱い立場の人の力になりたい」と思うようになった。大学卒業後は医療のとぼしいアジアで活動するつもりだったが、日雇い労働者や障害のある人を取り巻く厳しい環境を知り、勉強のために国内で3年ほど働くことに。だが、入職後に利用者の家族から聞いた言葉に、衝撃を受けた。「わが子より1日でも長生きしたい」。そこには、親亡き後の子の人生を憂い、自分より早く亡くなることを願わざるをえない母親の現実があった。「二度とそんなことを言わせたくない」という思いを強くし、障害者福祉の世界に身を置いた。

 利用者の家族からは多くのことを教わった。通所サービスだけだと、家族は8割以上の時間をわが子とともに過ごす。その負担の重さに気づき、職員たちとともに、家族に休息時間を確保する宿泊援助を始め、グループホームを開設し、その数を増やしていった。家族の意向を聞きすぎて本人の気持ちが置き去りにならないよう、信頼関係をていねいに築きつつ、バランスをとることを心がけてきた。

 2016年にオープンした2カ所目の拠点「イマジン」のコンセプトは、地域共生だ。農作業をする人、靴箱の掃除をする人、お風呂に入る人、個室でゆっくり過ごす人。障害のある人たちがそれぞれに合ったプログラムで過ごす場であるけれど、地域の人たちむけのイベントなども開催。住民が集って活動できる場でもある。「地域と交わることで、利用者さんは地域の一員となり、職員の世界も経験も広がる」

 自身のこれからの課題は、人材育成だ。「私たちは、『何もないところから作りあげる』という経験を重ね、問題の本質を理解しながら歩んできた。けれど、最初から整った職場がある若い人たちは、なぜ家族支援をするのか、根本的なことを問うて理解する機会がない。難しいニーズが訪れたとき、自分に何ができるのかあきらめず考えられる支援者になってほしい」。利用者や家族と歩みつつ、担い手を育てている。
(フリーライター・小坂綾子)