ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

しょうがいしゃ馬っ子の会

馬と触れ合うホースセラピー
心身に癒やしと成長生む(2020/11/10)


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しょうがいしゃ馬っ子の会で乗馬体験をする女性(2014年、南丹市)=写真提供

 ふだん笑わない幼児が馬上ではほほ笑みを浮かべ、障害で姿勢が定まらない少女の背筋がピンと伸びる。馬と接することで身体能力の向上や、心の癒やしをもたらすホースセラピーは、時に予想もしない効果を発揮するといわれる。

 京都府内で12年間、活動を続ける「しょうがいしゃ馬っ子の会」(京都市西京区)は、効果はもとより馬と心を通い合わせることを主眼にしてきた。乗るだけでなく、なでたり優しく声をかけ、餌やふんの世話をすることで、参加者たちは自然に笑顔になり、声にも力がみなぎる。

 「馬は、人が思う距離で接することができ、人と最も相性のよい動物です。馬上の揺れの心地よさも癒やし効果が大きい。かたくなに乗馬を拒否した軽い知的障害の男性が、乗り終えたとたん、私にハイタッチしてきたこともありました」。代表の山下泰三さん(73)は、馬を通じて参加者の成長と変化を見続けてきた。

 大手企業の中間管理職だった山下さんは54歳で失明。退職を余儀なくされ、自宅に引きこもる日が続いたが、旅行した北海道の牧場で、初めて乗馬を体験。爽快感を伴うその魅力に取りつかれた。

 本格的に乗馬習得を志し、右京区京北の乗馬クラブでミュンヘン五輪・馬術競技日本代表にも選ばれた高宮輝千代さん(故人)の指導を受けた。約3年で速足の単独騎乗もできるまで上達。信頼し合える馬との出会いもあり「第二の人生」に自信を深めた。

 馬っ子の会は、山下さんが視覚障害のある少年の父親から「同じ境遇の子どもたちも馬に乗せてやって」と頼まれたのが、設立のきっかけ。高宮さんのクラブで「乗馬のつどい」を開くうち、引きこもりや自閉症の子どもたちの参加も増え2008年、保護者ら協力者と共に会を誕生させた。

 乗馬のつどいは日曜日を基本に年間11回開き、年齢や障害の有無を問わず参加できる。会は馬を持たず、乗馬クラブなどから調達。現在は、会場を京都府京丹波町の乗馬関連施設に定め開催している。

 10年前から軽い障害のある次男(16)と参加している舞鶴市の伊賀原幸絵さんは、親子で心の安らぎをもらったと喜ぶ。「次男は小学生のころ、不登校になりました。でも馬を通じて同年代の友達ができ、元気になって支援学校に通学しています。私自身も会のお母さん方から『助け合おうね』と励まされ不安から解放されました」

 生きづらさを感じる人が多い今の時代、自己肯定感を高めるホースセラピーに期待する声は多い。馬っ子の会では、活動の一環に相談も兼ねた問い合わせを常時、事務局で受け付けている。

 「馬に救われた人生。世の中の役に立ちたい」と話す山下さんは今年、絵本童話「山犬物語」(文芸社)を出版。今後は馬っ子の会と童話創作による2本立ての活動で「子どもや若者に、夢や希望、生きがいを届けたい」と意気込む。コロナ禍で3月以降、活動を停止した乗馬のつどいは、来春早々に再開させる計画で準備を進めている。

しょうがいしゃ馬っ子の会
ホースセラピーの任意団体として2008年に設立。障害の有無にかかわらず、乗馬体験などを通じ脳と体の機能向上や心の癒やしを提供している。京都府内を活動域に会員約80人。事務局は京都市西京区075(585)8711