ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
広がる 地域の輪

きょうと障害者文化芸術推進機構

障害者らの創作発表支援
作品背景や思いにも向き合い(2021/01/25)


写真
「art space co-jin」の事務局で、展示会の企画などの作業に取り組むスタッフら(13日、京都市上京区)

 京都市上京区河原町通荒神口そばに前面ガラス張りで簡素だがモダンな構えの「art space co-jin」(アートスペースコージン)がある。このギャラリーで19日から、障害のある作家4人の粘土などの立体作品、絵画や写真・映像など、指先から生まれる細かな創作約50点を並べた「ゆびさきのこい」展(3月21日まで、無料)が開かれている。

 主催・企画の「きょうと障害者文化芸術推進機構」スタッフ小川俊一さん(44)は「障害のある人の作品には、意図してないもののようで実は何らかの意図があるように感じる。見る人にもそれを感じてほしい。『こい』には『故意』『愛すべき(作品)』『行為』などを含意した」と狙いを話す。

 同機構は文化芸術を通じて障害者への理解と社会参加を促進し、共生社会の実現を目指して府などが2015年12月に設立。同所をギャラリーと事務局を置く活動拠点、またイベントやワークショップなどを開く交流の場として16年1月に開設した。事務局は府障害者支援課の職員を含め男女スタッフ計9人で運営している。

 ギャラリーで年5回程度、障害のある人の作品や表現を紹介する企画展を開くほか、年に1度、府内の公共施設などを使った展覧会「共生の芸術祭」や巡回展を企画・開催している。スタッフの一人、寺岡海さん(33)は「私自身芸術作品を作っているんで、この活動に関わって、障害のある人が展示を前提にせず制作する姿などに接し、作品を作るということは何かと考えさせられることもあります」と話す。「作品の背景や作家の家族の思いなど、作品を取りまくものまで展示している感じ。それをバックアップすることを心掛けています」と言うスタッフも。

 展示作品や作家の制作風景、家族の話など周辺ドキュメントも含めてデジタルで記録・保存してデータベース化しインターネット上で公開するアーカイブ事業や約60人いるサポーター(展示会などの支援ボランティア)ら向けの講座を年3、4回開いたりもしている。

 スタートから5年目を迎えた20年度は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響を大きく受けた。4〜5月ごろは一時、休廊し、企画展示や講座も例年度より少なかった。ただその間も障害者施設や作品・作家へのリサーチ・調査に充てるなど工夫を重ねた。

 また「共生の芸術祭」はコロナ禍の中でも、人と人との「距離」やその間の「みちのり」に思いを巡らし、向き合い、「共に生きる」ということを考えてもらう狙いで「距離のみちのり」というテーマを掲げ昨年11月に京都文化博物館で開いた。入場者数や関連イベントの減少など影響を受け、展示した作家の中には、身近な人を亡くした人もいたという。

 会場が使えず展覧会自体が減っている時期でもあり、作家自身にも喜ばれ、参観者からも「この時期によく開いてくれた」とも言われた。同展は今年3月には福知山市の「市民交流プラザふくちやま」でも巡回展として開く予定だ。スタッフの府職員柿木真菜さん(37)は「5年間の活動は、芸術支援とはいえ、障害のある人たちを支え、広い意味で地域作りという側面があったと改めて感じる」と話した。

きょうと障害者文化芸術推進機構
文化芸術を媒介に共生社会の実現を目指し、京都府などが2015年12月に設立。活動拠点の「art space co-jin」を京都市上京区に16年1月開設。事務局スタッフ9人を中心に運営している。同機構050(1110)7655