京都市西京区の住宅地に、社会福祉法人・はるの里が運営する生活介護事業所・はるの里がある。3年目の職員岩本有紗さん(24)は、知的障害のある人たちが日中を過ごすのをサポートする。職場では一番若手だが、利用者からの信頼は厚い。輪の中に入ると、場の空気がふんわりと和む。
「私がみんなに何かをするというより、みんなが快適に過ごせる環境をつくっているような感覚です。みんなの円の中に入れてもらえるのがうれしいですね。職場に来ると安心するし、元気になれるんです」。主役は利用者であることを忘れず、その人が何を望んでいるのか、そのために自分に何ができるのか考えて日々動いている。
障害福祉の世界に飛び込もうと決めたのは、テレビ番組で障害のある人が輝いて過ごす姿を見たのがきっかけだ。「こういう時間を支える仕事がしたい」と思うようになった。小学生のとき、知的障害のある友だちと過ごすのが楽しかったことも思い出し、福祉を学べる大学に進学した。
「はるの里」との出合いは、大学3年のときだ。自宅が近かったことから、就職活動のときに見学し、「あったかいところだな」と気に入った。アルバイトを始め、卒業後に職員になった。
岩本さんは繊細で考え深いところがあり、「嫌われたかな」と気になったり、落ち込んだりすることもある。「だけど、ここにいるときは違う。みんなが思ってることがなんとなく感じ取れて、『仲間だよ』『ここにいていいよ』って言ってもらっている気がします」
はるの里での主な仕事は、散歩や自主製品づくりなどの日中活動の支援と、トイレや食事の介助。岩本さんが担当するグループは自分でできる人が多いが、困っていそうな場面を見ると声をかける。
特にやりがいを感じるのは、個別支援計画の策定だ。利用者一人一人の思いにどんなふうに関わり、どう過ごしていくかを考える。「はるの里の支援計画は、『こうなってもらおう』ではなく、『本人がこう過ごしたいから希望をかなえよう』というスタンス。その人自身のことをじっくり考える必要があるけれど、人やものごとについて考えを深めたり、哲学的な見方をしたりすることが昔から好きだったこともあって、楽しいですね」。仕事の合間に哲学の本を読み、学び続けることを忘れない。
将来は、他機関との連携など、できることを増やしながら人の役に立てる仕事を続けていきたいとの思いがある。「人の考えって、その人の感情中だけで起こっているものではなくて、人と社会との相互作用。だから、もっといろんな角度から福祉を捉(とら)えられるようになりたい」。そう考えている。
福祉の仕事には、「きつい」「大変」というイメージがあるということもよく耳にする。「でも私自身は、大変だと思ったことがないんです。人と向き合って、一緒になってよりよい日々をつくっていける仕事だと思っています」
(フリーライター・小坂綾子)