2020.04.27
2020.04.27
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
春のコンサートを中止しました。4月になれば大丈夫かと思っていましたが、とても開催できる状況でなくなってしまいました。
コンサート予定の当日、会場に中止のお知らせを張りに行くと、閉まった扉のそばの桜は折しも満開で、見上げた視線の先には雲ひとつない青空が広がっていました。春の風は、その場にしばし佇(たたず)んでいた私を心地よくつつんでくれて、不思議な静けさを感じました。
前の道には何台ものタクシーが連なって止まっていました。運転手さんにお客様待ちかと尋ねますと「いえ、毎日休憩です」というお返事。そこにやってきた市バスの乗客はゼロ。走り去って行くバスの後ろ姿はとても寂しそうでした。
新型コロナウイルスのまん延で私たちの日常は一変し、会話もコロナ一色。暗い話題はもう嫌だと思っても現状は知っておかなくてはならず、朝から晩まで危機的なニュースに耳を傾けてしまう日もあります。
次々に押し寄せて来る情報を受けとめているうち、ふと疲れを覚えた時に「情報から距離をおいて、こころを休めることも大切です」ということばがテレビから耳に飛び込んできて、私はハッとしました。
考えてみますと、私たちの今の生活は情報の上に成り立っています。インターネットや携帯電話の普及で情報の入手が便利になった反面、ある意味で必要以上に過敏になっているように思うことがあります。
緊急を要する情報、知っておくべき情報はあります。しかし、常に膨大な情報に縛られてしまっていては、本当に必要な事を見逃したり、人の情報だけに頼って物事を判断することで自分を見失ったりすることが起こりうる気がします。
情報から距離を置く。こんな状況だからこそ、私も時には情報から自分を解き放ち、重くなったこころの換気をしようと思います。
感染防止のために部屋の換気が呼びかけられています。今は窓を開ければ春の風が入ってきて、疲れを癒やしてくれる季節です。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。