2020.05.11
2020.05.11
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
ACT―K主宰・精神科医 高木 俊介
昔、社会運動というものがあった。自分たちの力と知恵で社会を変えようと夢を見て、老若男女が同じ目標のもとに集いあった。
もちろん、今も地道に貧困や子どもの虐待などの社会問題に取り組む若者たちがいる。そんな人たちには、また年寄りの繰り言だと言われそうだ。だが、私がかかわってきた精神科医療改革の運動でも、今の精神科医療が細分化しすぎて、共有できる改革目標がない。他の障害者解放運動でも悩みは同じだ。これまでの社会運動の成果として法律やシステムができると、さらなる権利に向けた運動が続かなくなるのだ。
ある1日、精神・身体・知的障害者の当事者とその支援者が集まり、自分たちが積み上げてきた運動のバトンを次の世代とどうつなぐかということについて話し合った。そこで、福祉事業所を運営する中堅の支援者の話に打たれた。
今の若い人たちは、お金や偉くなることには興味がない。お金も地位も人生を保証してくれる時代ではないことが身に染みている。だから、人生を語り合いたいと本気で思っているようだ。この数年、社会に出たばかりの若者がそんなふうに変わってきている、と。彼らにとって、障害を持ちながら一生懸命生きている人たちに接することに魅力があるのだ。一方的に支援をするのではなく、障害者の人生に教えられ、自分が救われているかのようだ。そのような仕事の魅力、自分たちの人生にとって見いだした意義を、先輩たちとも語り合いたがっている。それに応えられるバトンが必要なのだと、彼は言う。
今、そんな若者たちの前途に、コロナ禍が襲う。私たち先輩は、ひたすら不安におののき右往左往するだけだ。社会全体も大打撃だが、感染の直接の影響が少ない若者たちにとっては、さらに理不尽な災禍だ。
若い世代が生き延びるための支援を考えることが、私たち年長者の役割であり、社会全体の使命だ。彼らのこれからの長い人生にとって意味のあるバトンとしてつないでいくために。
たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。