ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

こころの時間

2020.11.30

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

紅葉がすすむにつれ、人出が増えた今年の秋の京都。電車もバスも満員。話題のお店には長蛇の列ができ、「観光シーズン」という言葉を思い出し、新型コロナウイルスのことを忘れてしまいそうになりました。

このような時期に紅葉を求めて出かけることは滅多にない私ですが、たまたま有名な寺院で研修会がありましたので、参加してみました。人気のある京都に住んでいるのですから、もう少し京都を知っておきたいという思いもありました。

参道からの木々の彩りは美しく、広い境内にどっしりと腰を下ろした本堂は重厚で、誰が見ても感激するだろうと思いました。山門(三門)に上がりますと、境内からその周辺まで見渡せる絶景。そしてその内部に入らせていただきますと、お釈迦(しゃか)様と十六羅漢の像がありました。その像を眺めながら座していた時、「今日はここに来て良かった」と深く感じ入るものがありました。幸せな時間でした。

研修の解散後、せっかくだからもう少し散策しようと、人の少ない裏道を歩いてみました。このあたたかな余韻は何なのだろうと思いながら、ふと夕空をみあげたとき、「あの時と同じだ」と思ったのです。

それは遠い冬の日。私は小さなお寺の書院にひとり座ってぼんやり庭を眺めていました、すると突然音もなく空から白いものが落ちてきて、その静閑な庭の景色が、そのまま私のこころに映しだされたような気がしたのでした。

私は、今日、自分のこころを見る時間をいただいたのだと気付きました。同時に、さまざまな情報に左右されて、せっかく見聞きしたものがこころを素通りしてしまっている日常を省みる機会をいただきました。

京都には世界に誇れる文化財がたくさんあります。その文化的価値や高い芸術性は知り尽くすことはできなくても、その真の価値を知ることができたような気がしています。

もう少し名所を訪ねてみようと、京都の地図を広げて思いを巡らせています。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。