2021.03.08
2021.03.08
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
まだ冷たい風の中で揺れる枝に芽吹きを見つけて口ずさんだ「早春賦(そうしゅんふ)」。「春は名のみの風の寒さや 谷のうぐいす歌は思えど」と歌うと、春の足音が聞こえてくるような気がします。
このような日本の童謡や唱歌は、いつもほっとした時間を与えてくれますが、若い人たちは、あまりご存じではないようです。歌に込められた日本の情緒を伝えたいという思いと、これも時代の流れなのだという思いが常に交錯します。
同じようなことを頻繁に感じるのがことばです。「アベックが、ヤバいヤバいと言いながら食事をしてたんやけど」と首を傾(かし)げた知人に「ヤバい」は最近「美味(おい)しい」という意味に使われ、「アベック」は若い人たちには通じないと話しました。でも、私は知人に深く同意していました。小さなコラムに「経験値だけで物事は判断できない」と書いた後で、「経験値とはコンピューターゲームで強さを上げるために必要な経験を数値化したもの」という文章を見つけて、少しショックを受けたところだったからです。
そんな世代の相違を考えているとき、東日本大震災から10年となる被災地のテレビ番組で、20歳の語り部さんが映しだされました。当時10歳の記憶で何を語るのだろうと思いましたが、彼は大人が感じられなかったことを感じ、子どもだから見えたこと、その貴重な体験を語られました。その後さまざまな年代の方が将来に向けて一緒に話し合われる様子に、理想的な社会を見た気がしました。世代の違いを知って理解し合うこころ、そのしなやかさが伝わってきたからです。
仕事上でも日常生活でも若い方と接する機会が少ない私は、無意識に線を引いて違和感を感じてきたのかもしれないと思いました。
日常のほとんどのことがスマートフォンで処理できる時代にあっても、予定は手帳に書き、レジで小銭を数えることもある私ですが、しなやかなこころを保っていれば、世代の相違も楽しんでいけるような気がしています。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。