ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

チームオレンジ

2021.04.26

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

さわやか福祉財団 会長 堀田 力

2007年いわゆる認知症JR事故事件に対する最高裁判所は、特定の家族に、認知症者の外出を止めなかった責任を認めた。コロナ禍で人々が痛感しているであろう「外出する自由」を、認知症者は無条件無限定で否定されたのである。

このように家族は認知症者への対応責任を全面的に負わされ続けてきたのだが、幼子ならともかく、大人としての行動意欲と行動能力を備えている認知症者の全行動について責任を持つことなど、家族にも誰にもできない。そこで家族からは「専門家よ、何とかして」と悲鳴があがる。

自分たちでは面倒見切れない、という悲鳴は、そのとおりである。

しかしその対応を専門家にすべて委ねるのは違うであろう。専門家は知見を広く伝えて正しい対応に導く責任はあるが、例えば認知症者の外出や居場所参加などへの対応は、地域の人々が総がかりでするほかない。そこが実現しなければ、認知症の人々はしたい外出すら自由にできない。

最近になって、認知症者への対応は認知症者本人の立場に立って行うべきだという当たり前の考え方がやっと理解され始め、本人の言葉を聞く試みも、普及し出した。

そして語られ始めた認知症者の共通の本音は「普通の人として接してほしい」である。専門家から面倒を見てほしいという声は聞こえてこない。

温かい支え合いが残っている地域では認知症者は自由に出歩き、時に観光案内をしたり子どもと遊んだりお店番をしたりしている。

もう1300人以上も養成が進んだ認知症サポーターにこのたび大きな役割がきて、「チームオレンジ」を結成して認知症者の外出支援もすることとなった。

これで外出の自由を楽しめる認知症者がぐっと増えるだろう。菅原弘子さん(地域共生政策自治体連携機構事務局長)のサポーター養成に対する長年の地道な努力が、また一つ、大きな実を結ぶことになる。

ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。