2021.08.23
2021.08.23
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
立命館大教授 津止 正敏
特段の映画好きというわけではないが、はやりの話題作には足を運んできた。今はもう定年後の特別任用の身だが、数年前まではゼミ生との映画鑑賞も毎年の恒例としていた。
特にマイケルムーア監督の作品群はほぼ制覇してきた。「ボーリングフォーコロンバイン」「シッコ」「世界侵略のススメ」「華氏119」等々、すべて監督がカメラを引き連れメガホンもってアポなしでマイクを向けるというドキュメンタリーだ。貧困や格差、医療、福祉など私の専門とするテーマも随所にちりばめていて肯首しながら鑑賞した。
ムーア監督はそれらの作品で政治や財界のトップリーダーを厳しく指弾した。アメリカの医療実態を扱った「シッコ」で狙い打ちにしたのは、政治リーダーと国民の健康を食い物にしている製薬業界や医療ビジネス。当時のブッシュやヒラリーなど大物政治家のほとんどが業界からの巨額の資金を得ていることも、映像の噴き出しで赤裸々に暴いていた。世界の善き施策を米国に持ち帰ろうと皮肉った「世界侵略のススメ」では福祉先進国の紹介もあってうれしい限りだった。
突撃リポート、といえばワケありなタレントを執拗(しつよう)に追いまわすバラエティー番組しか知らなかった私には衝撃だった。学生からはこんな声もあった。こんな映画、日本ではできっこないよな。公開する劇場もないよな。確かに。ムーア監督に喝采しながらもため息も出てきた。本作が公開されたのは2007年だから、もう10年以上前になる。
しかし、だ。今公開中の映画を見て留飲が下がった。ふわふわでうまそうにはみえるが、中身はスカスカのパンケーキのようだと現政権を風刺した「パンケーキを毒見する」だ。しかも公開劇場は京都市のど真ん中。やっとこの国でも現役総理をターゲットとした娯楽映画が生まれたんだ、と感激。時の権力者を画面いっぱいにこねくり回しながら、こう問う。こんな国にしたの誰なんだ? ぜひスカスカのパンケーキを「毒見」してほしい。
つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる – 男性介護者100万人へのエール – 』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言 – 』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」 – 』、『子育てサークル共同のチカラ – 当事者性と地域福祉の視点から – 』など。