ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

新・生存権裁判判決の示すもの

2021.09.27

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

9月14日、京都地方裁判所(増森珠美裁判長)で、新・生存権裁判の判決が出された。

この裁判は、2013年から15年にかけて、厚生労働大臣が行った生活扶助基準平均6・5%、最大10%の引き下げが、憲法、生活保護法に違反しているとして取り消しを求めている裁判である。

全国29の裁判所で1000人を超え、京都は42人が原告。私も原告代理人である。京都判決は、名古屋(原告敗訴)、大阪(同勝訴)、札幌(同敗訴)、福岡(同敗訴)に続く5件目の判決であるが、原告の請求を棄却する敗訴判決であった。

もともと、生活扶助基準については、その変更に「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性」がない場合は違法となるとの最高裁判所判決がある。また、生活保護法8条2項では、基準の計算上の考慮要素が決められ、「最低生活の需要を満たすに十分なもの」でなければならないとされている。

しかし、判決では、最高裁の判断枠組みを全く無視。また、法8条2項の要件を考慮しなくても問題はない。大臣が、専門家(基準部会)の検討を経ずに、一般の消費者物価指数の下落率(2・26%)を、生活保護世帯だけの物価指数を作って4・78%も下げたことについても問題がない。さらに、政権与党の選挙公約であった「生活保護費10%削減」に沿って結論ありきで引き下げても問題がないとした。一方、原告の生活実態については、検討すらしていない。

生活保護基準は、最低賃金、年金の水準、就学援助の基準などと関連、連動しており、国民生活全般に重大な影響を及ぼす。コロナ禍で、その重要性が改めて明らかになっている中、基準が、大臣の大幅な裁量に任され、いわば何をやっても許されるという判決は、到底容認できない。

私たちは、「生存権」保障の重要性をさらに広く訴えて、基準の在り方を問い続けたいと決意している。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。