2021.11.29
2021.11.29
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
さわやか福祉財団 会長 堀田 力
感情労働という言葉がある。医療や介護、福祉など人の不幸に対応する仕事のことで、仕事の相手の不幸や苦痛に共感し、感情をゆさぶられる性質を持つからそう呼ばれる。
仕事の相手方である患者や利用者などの立場でいうと、医師や看護師、介護福祉士などのプロは、こちらの苦痛や不幸な立場を理解し、共感してくれて、対応してくれるとありがたい。同情心のかけらもなく、冷たい態度で接されると、心が傷つく。その差は大きい。
だから、医療界では患者中心の医療ということで「患者さま」などと呼ぶ動きもあったが、これは行き過ぎで、しらじらしい。普通に名前を呼んでもらった方が安心である。
一方、プロの立場からすると、相手の患者や利用者すべてに、心から同情したり共感したりしていては、身がもたない。プロとはいえ仏様ではないのだから、一目で嫌になったり、反感を覚える相手もいるだろう。生意気な口のきき方をされたり、プロとしての意見を頭から否定されたりして、ムカッとすることもあるのではなかろうか。
そんな時、どうすればよいか。プロの内輪のアドバイスは別として、表向きには「そんな時でも、相手は弱い立場なのだから、感情的にならず、冷静に理解させるべきである」と説く。
では、自分の本心(感情)はどうするのか。
心理学では、相手への感情は忘れて、相手をどう扱うのが良いかを配慮することに集中しようという。感情社会学では、自分の本心(感情)は置いておいて、社会的(表面的)に求められる対応(怒っていても顔では笑うなど)をしようという。そうすれば、疲れたり燃え尽きたり自分が嫌になったりしないですむ、というのである。
それが、プロの道なのだろう。そこが、プロと助け合いボランティアとが違うところかもしれない。
ボランティアは、本心で対応する。だから、合わなければ、おしまいである。
ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。