ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

ジョニー・デップ

2022.01.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

立命館大教授 津止 正敏

今年もまた閉じこもり正月。ネット配信の動画鑑賞で過ごした。配信リストに、昨年9月に公開されたばかりの話題作「MINAMATA―ミナマタ―」があって驚いた。映画館に足を運べずに見逃した作品だ。

エンドロールには、世界各地の公害問題がこれでもかとばかりに流れた。インドネシア金採掘による水銀汚染、ハンガリーアルミナ工場有毒廃棄物流出、ドミニカバッテリー工場による鉱物汚染、米国フリント水道水汚染…。そして「本作を水俣の皆さんと世界中の公害被害者及び支援者たちに捧(ささ)げます」と締められた。

写真家ユージン・スミスの写真集「MINAMATA」が素材となった。スミスと水俣病との出会いにも興味はあったが、それ以上に製作・主役を担ったジョニー・デップの関与に引かれた。彼は何故、この映画を撮ろうと思ったのか。映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズの主役を張り、私生活ではDV騒ぎも起こしアウトロー然とした彼のイメージと水俣病とが全く結びつかなかった。

調べていくうちに彼のもう一つの顔を知った。「妹の恋人」(1993年)で神経を病む知人の妹の面倒を見る青年、同年の「ギルバート・グレイプ」で過食症の母親と知的障害のある弟(あのL・ディカプリオが演じていた)を支えながら暮らす兄。今で言うヤングケアラーが彼の役だ。またネーティブ・アメリカンの血筋という彼の出自も知った。母方の曽祖母はチェロキー族であり、父もそうだという。自らのルーツへの関心からか、アメリカ社会の差別・排除の構造に翻弄(ほんろう)されるインディアン家族を描いた「ブレイブ」(97年)では、監督・主役・脚本の3役をこなしている。

公害、障害、先住民等々社会の中心から徹底して排除される人々。困難を抱え鬱屈(うっくつ)した暮らしを強要されてきた彼らへの親和性がデップには宿っているのだろうか。そんな思いに駆られながら、荒唐無稽なファンタジー「パイレーツ」の変人ジャック船長に扮(ふん)したひげ面デップをみていた。

つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる – 男性介護者100万人へのエール – 』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言 – 』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」 – 』、『子育てサークル共同のチカラ – 当事者性と地域福祉の視点から – 』など。