2022.03.15
2022.03.15
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
昔話や京都に伝わる民話を元に歌物語を作ることになりました。ワクワクする企画ではありますが、台本を書かなくてはならなりませんから、私にとってはちょっとした冒険です。
とりあえず、いろいろな民話を読むことから始めました。数行の話も起承転結のない話もありますが、どの話にも、神仏など目に見えないものへの畏敬の念を持ち、自然と共存しながら生きる人たちの姿がありました。野山にいる動物たちが語り、鬼が現れれば村人たちは知恵を出し合い一致団結して戦います。
よく知っているつもりでいた有名な昔話も、しばらく遠ざかっていた私にとってはとても新鮮で、子どもの頃に描いた景色とはひと味違う情景が見えたりもしました。今の生活と違い急がない時間が流れるお話の世界に浸っていくうちに、私は目的を忘れて読むことに夢中になりました。
当然のことながら台本制作は遅れましたが、私は何か心地よい晴れやかなものを感じ、大切な時間を過ごした気がしました。何かを読み解くためでもなく、読むことによって何かを得るためでもなく、ただ素直に読んだことで、私のこころがお話の中に散歩道を見つけて、自由なひとときを楽しんだように思えました。
人は仕事だけでなく、遊びも日常の生活でも常に目標を立てて暮らしています。努力もします。その結果として衣食住が整い、いわゆる生活の向上にもつながっていきますから、目標を持って結果を求めることは不可欠なことだと思います。
ただ、そうでない時間があってもいいのではないかと、最近少し思うようになりました。ずいぶん長い間、コロナのトンネルにいたから、そんな風に考えるようになったのかもしれません。あるいは、ちょっと少し年を重ねたのかも知れませんが、外に出る散歩は三日坊主になりそうな私でも、こころの散歩なら続けられそうに思います。意外に身近なところに、すてきな散歩道があるような気がしています。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。