2022.05.23
2022.05.23
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
「おいくつになられましたか」と私がマイクを向けると、「100歳になりました」というお返事。会場は「おお」という声とともに、どこからともなく大きな拍手が起こりました。この春のコンサートのことでした。
にこやかな笑顔で100歳になったと答えてくださった女性は、私が初めてピアノを習った先生です。私は小さい頃、いつも家の前で歌を歌いながら遊んでいたらしく、近くに住んでおられたその先生が、「ピアノを習われたらいかがでしょう」と母に声をかけてくださったのだそうです。音楽との出会い。そして、いつも丁寧に教えてくださったおかげで、私は音楽が大好きになったのでした。
芸大に進んだことを喜んでくださり、卒業して以来、私のコンサートには大抵来てくださっていた先生もお年を重ねられ、「行けなくて残念です」というお手紙をいただくことが多くなりました。仕方ないと思いつつも、何とか会ってお話しがしたいという気持ちを持ち続けていた私に、うれしい日がやってきたのでした。
私の記憶のままの、やさしい先生のお顔を見ながら歌えることがあまりにうれしかったので、今までのこと、そして先生がおられなければ、歌手にならなかったかもしれないし、今日のコンサートはなかっただろうと皆さまに話し、先生を紹介しました。涙ぐんでおられた方もありました。
「ありがとう」ということばを残して帰られた先生の、100年という歳月を生きてこられたおこころを感じながら歌うことができ、そして再会を温かく包んでくださった会場の皆さまのおかげで、感動のコンサートとなりました。いただいたご縁によって私に今日があることに、改めて深く感謝する1日でした。
今、恒例の「父の日チャリティーコンサート」の準備を進める中、皆さまのお支えがあって活動を続けることができることのありがたさを今まで以上に感じています。こころの奥で、101歳の先生にお会いする日を楽しみにしながら。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。