2022.07.26
2022.07.26
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
弁護士 尾藤 廣喜
厚生労働大臣が2013年から15年にかけて、生活扶助費を平均6・5%、最大で10%の引き下げたことが、憲法・生活保護法(以下「法」という)に違反しているとして取り消しを求めているのが、「いのちのとりで裁判」である(京都の裁判は、「新・生存権裁判」という)。
この裁判は、全国29の裁判所で約1000人の生活保護利用者が原告となり、現在までに、11の裁判所で判決が出され、名古屋、札幌、福岡、京都、金沢、神戸、秋田、佐賀の各地方裁判所の判決は、原告敗訴。大阪、熊本、東京の各地方裁判所は、原告勝訴の判決となっている。このように、生活扶助基準引き下げについては、適法と違法の二つの判断に分かれている。何故、このように結論が分かれているのだろうか。
もともと、基準を変更する場合、「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性」がない場合には違法との最高裁判所の判決がある。また法8条2項では、基準計算上の考慮事項が定められ、「最低生活の需要を満たすに十分なもの」でなければならないとされている。
にもかかわらず、①当時野党の有力政党が10%引き下げを公約し、選挙後与党に返り咲いた結果、その公約にそって引き下げがなされた ②一般の消費者物価指数の下落率が2・26%であるのに、生活保護世帯のみが4・78%もの下落率となっている ③物価の下落を専門家(基準部会)の検討なく計算に入れたことなどが問題となっている。
これらの点について、いずれも問題がないとしたのが、原告敗訴の判決。違法であるとしたのが、原告勝訴の判決である。中でも、大阪、熊本に引き続き、厚生労働省のある東京地裁が原告勝訴判決を出したことは、大きな意義を持つ。
判決は原告勝訴の流れへと大きく変わった。今、京都の裁判は、大阪高裁に移っているが、本当に「生存権」を支える制度を確立する判決を期待したい。
びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。