2022.08.09
2022.08.09
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本めぐみ
さまざまな情報手段がある今、テレビは老人向けメディアだと言う人もあるそうですが、私は単なる情報だけでなく、そこにある出会いを楽しんでいます。
知らない世界、あらゆる分野の専門家のお話はいつも新鮮に響きます。詳しい内容をほとんど忘れてしまうのは残念ですが、実際には会えない自然や文化、日常的な出来事にも感動したり、生き方を考えたりする時間をいただきます。
先日は画面を通してクラゲに会い、久しく水族館に行っていない私は、フワフワと揺れる不思議な姿に癒やしを感じていました。クラゲの生態は知りませんでしたので興味深く見ていますと、とても貴重だという映像が映りました。そして「これはクラゲの研究が一歩進む記録です。いやあ、感動しますね」と海洋学の先生が屈託ない子どものような笑顔で話されたとき、本当に研究がお好きなのだろうと思いました。同時に目尻のやわらかなしわは、重ねてこられた月日の年輪のように見えたのでした。
数日後の番組では山深い集落の生活を知りました。ソバマキトンボと呼ばれる赤とんぼが舞うとソバの実をまき、土が乾かないようにと20の茅(かや)を背負って畑へ置きに行く。80歳を超えての農作業。「大変だけどこれが仕事。生活じゃけ」と元気に笑われたときのしわは、日焼けしたお顔にとても似合っていました。しわが似合うというのは失礼かもしれませんが、自然を愛し続けたこころがじかに伝わってきたのです。
ソバの花が咲けば「ありがとう」と言い、実は石臼でひく。それを打って作るおソバは格別な味がするのでしょう。うれしそうにおソバを口に運ぶお箸を持つ手が語るものが見えたとき、「しわ」は、それぞれの人生のこころの年輪。すてきだなと思いました。
まだ、しわが増えないように少々あらがってみている私。でもこれからも歳を重ねることができるなら、穏やかな年輪が刻めるように心がけようと、自分を省みながら考えています。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。