2023.03.14
2023.03.14
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
友人とのランチのあと、外に出ると2月とは思えない柔らかな陽が差していました。やさしい風の中を駅への道を歩いているうちに、ふと「急いで帰ることもないなあ」と思った私は帰路とは反対方向の電車に乗ることにしたのでした。特に目的も持たないまま。
電車の窓から見えるのは田んぼや畑。その向こうには雪の帽子をかぶった山が連なっていました。静かに広がる田畑の風景が妙に心地よく映り、私が口にするお米や野菜はこういう所で育てられているのかと、自然の恩恵や人の営みがそこにあることを思いながら眺めていました。日常にはない楽しい時間でした。
降り立ったのは長浜。盆梅展の案内に従って会場に向かいました。会場は明治天皇の行在所(あんざいしょ)として建てられた迎賓館で、庭園の大きな木に歴史を感じたり、春を待つ小さな芽を見つけたりしているうちに、以前ここに来たときは盆梅しか目に入っていなかったことに気付きました。もったいないことをしていました。
そのあと、日本最古の駅舎が残っている鉄道スクエアへ。明治初期から長浜が鉄道の要所であったことを初めて知り、蒸気機関車D51の大きさにも圧倒されました。運転席に乗ってみるとあちこち汚れたりすり減ったりしていて、この列車が長年にわたって人や荷物を運び、それが多くの人の生活を支え、私たちの今日につながっていることを実感しました。
何度か訪れた土地で、今回はほんの数時間のあいだにちょっとした旅気分を満喫することができたのでした。欲張らない時間を過ごすことで、土地の気候風土に直に触れることができたからかもしれません。
名所旧跡を訪ねることも、SNSにアップしてつながることも旅の楽しみだと思いますが、普段とちがう所にこころを置いてみるだけで、観光案内にはない自分の旅ができるのではと思う充実した1日でした。気候もよくなってきました。また、ふらりと出掛けてみたいと思っています。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。