2023.05.08
2023.05.08
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
弁護士 尾藤 廣喜
人と話しているようにAI(人工知能)が答えてくれる対話型AIが大きな話題になっている。企業では、店頭での接客、新規事業のアイデア作りなどさまざまな用途で既に使われ始めている。大学では、学生のリポート作成に悪用されるのではとの弊害が指摘される一方、これを教材にさらに進んだ議論を進め、教育を充実すべきだとの意見も出されている。地方自治体や国政での導入も検討されている。われわれ法律家の世界でも、かねてウェブ上での無料相談を運営している団体が、「チャットGPT」を使った無料法律相談サービスを近く開始するという。
全ての人が気軽に無料で法律相談ができるという点では、大きな前進だと思うが、問題も少なくない。
第1に、法律相談は、膨大な法律と判例をもれなく踏まえたうえで、適切なアドバイスするとことが必要であるが、対話型AIにその漏れがないかどうかが問題である。また、第2に、相談者が、大事な事実を記載もれし、これによって、アドバイスの結論が違ってこないかという問題がある。対面での法律相談では、これを是正することが可能であるが、それが可能なのか疑問がある。
第3には、あくまでも既存の法律や判例が前提なので、法律の内容自体がおかしいとか、判例の変更が必要であるとか、「権利の濫(らん)用」「消費者保護の必要性」「ジェンダーフリー」など抽象的な価値概念については、新しい考え方、視点を打ち出せない傾向がある。
法律相談は、最もファクトチェックが重要な分野であり、気軽に無料で相談できるという利点が、反面誤った事件処理や法論理をまき散らすことになりかねない。
しかし、私は、対話型AIの有用性を全否定するつもりはない。藤井聡太六冠は、AIを使いこなし、これを越え、より高い次元での棋風を確立しておられる。
われわれも、対話型AIの利点に学びつつ、これを越え、より精度の高い、法理念に従った、相談者のための利用しやすい法律相談を行わなければならない。
びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。