ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

人間がAIに成り下がる?

2023.05.22

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ACT―K主宰・精神科医 高木 俊介

「チャットGPT」というAI(人工知能)が話題だ。AIがいよいよ私たちの身近なものになる。AIの発達は近いうちに人間の能力を超え、人間の想像が及ばないものになり、人間を支配するだろうと言う研究者もいる。それだけに、この第一歩は、期待や驚嘆とともにさまざまな不安も引き起こしている。

ちなみに何でも良い、身近な問題をチャット画面に書いてみる。瞬時にして答えがくる。もっともらしく整った文章、世界のすべてを知っているかのごとき広範囲の知識。これでは大学生がリポートをこれで済ますようになるのではないかという心配や、だから国の規制が必要だという意見が出るのももっともだ。

だが、心配や規制が必要なのは、その精巧さのためではない。しばらく使えば、どんな小さなことでも人間が自身でつづる文章や語りが持つ味わいや感情の機微、そしてユーモアには、この最新のAIの精巧さもかなわないとわかるだろう。

だが、やはり問題はある。それは、この仕組みを世界の少数の営利企業が独占していることだ。この流行を作り一気に皆が使うように仕向けているのも同じ企業だ。そして、AI文章のもとなる情報を提供するのは、他ならぬ私たちなのだ。私たちの日常生活のこまごましたすべての情報が、さまざまな情報端末を使うごとに、私たちの知らないうちに無償で吸い上げられている。やがては、大量の情報を独占する少数の大企業が、私たちの生活を監視し支配するだろう。

チャットGPTは今のところ、目新しいおもちゃにすぎない。だが皆がこのAIを頼りにして生活するようになれば、この機械のようなやりとりに慣れる私たちの感性がやせ細っていく。すでにSNSの世界がそうだ。そこでは、短絡的で無思慮な言葉の応酬ばかりだ。私たちは、一部大企業の営利活動に支配されるがままになるだろう。

AIが人間を超えるのは、まだまだ先だろう。人間がAI程度に成り下がっていくことが怖いのだ。

たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。