2023.09.12
2023.09.12
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
弁護士 尾藤 廣喜
今年は、観測史上最も暑い夏といわれる暑さだ。にもかかわらず、生活保護世帯では、クーラーの設置費用を福祉事務所が負担する場合が限られ、設置されていない世帯が少なくない。また、仮に設置されていても、電気代が高額で、クーラーを動かせない世帯が多い。
夏季の生活費負担増に対応した保護費の上積み(夏季加算)が認められる必要がある。
これに追い打ちをかけるように、資源価格の高騰と円安の進行を契機に、物価が異常に高騰している。8月18日に総務省が発表した7月分の生鮮食品を除く全国消費者物価指数は、前年同月比3・1%増。食料の物価指数は、3カ月連続で前年同月比9・2%もの増となっている。
このような状況で、先ごろ5年毎の生活保護基準額の見直しが生活保護基準部会で検討された。その結果は、標準世帯(夫婦子ども1人)では、基準額を2%アップすべきとしたが、生活保護世帯の半数を超える高齢世帯、4割を超える大都市部居住世帯については、引き下げを行うべきとの内容だったという。これは、今の基準額計算方式に生活実態に合わない根本的欠陥があることを示している。政府は、さすがにこの方向を維持するわけにはいかず、2023年10月から、標準世帯では、基準額を2%アップし、他の世帯では、基準部会の検討額を1人当たり月額千円増額するなどの手直しを行うとしている。しかし、これでは、実質的に基準の引き下げになってしまう。また、夏季加算など全く考慮のうちにも入っていない。
生活保護制度は、全ての人の生存権を支える制度であるだけでなく、その基準額は、最低賃金の額、就学援助の支給基準、住民税の非課税限度額など多くの制度と関連しており、「ナショナル・ミニマム(国の最低限度保障)」を決定するものである。このような重要な基準がどうあるべきかは、制度の利用者だけでなく、私たち誰もが考えなければならない問題だ。
びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。