2023.09.18
2023.09.18
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
僧侶・歌手 柱本 めぐみ
どこからか秋の虫の音が聞こえ、降るように鳴いていた蝉(せみ)の声がぴたりとやんで終わりゆく夏を感じた時、移ろう季節をこうして繰り返しながら生きてきたことをふと思いました。見上げた空も秋の色でした。
自坊で、ささやかな歌の教室を開いています。教室と言ってもうまくなることが目的ではなく、歌のエピソード、時代背景などをお話しながら皆さんと楽しく歌っています。いろいろな歌を歌う中で、欠かせないのが季節の歌。先日も初秋の歌、「小さい秋みつけた」「誰もいない海」などを歌いました。秋が深まるにつれ「赤とんぼ」「紅葉」「里の秋」「旅愁」など、日本の季節の歌は枚挙にいとまがありません。
それらの歌を毎年歌っていても、歌詞を全て覚えているわけではありませんから、初めは全員が歌詞の文字を追って歌われます。きれいに歌われるのですが何となく楽しくないので、「歌詞にある景色を思い描きながら歌ってみてください」と申しますと、皆さまの表情がとても明るくなり、声も驚くほど伸びやかになります。それは、単に景色を想像されたからではなく、皆さまがこころの中にあるアルバムを開かれたからだと思うのです。歌いながら目に映る景色には、それぞれに生きてこられた日々の大切な思い出があり、そしてご縁をいただいて、声を合わせて歌える今がある。それは私にとってありがたく、あたたかな時間です。
童謡唱歌など日本の叙情歌には人々の暮らしがあり、自然に対する畏敬の念が織り込まれ、それぞれの時代を生きられた方々があって私たちの今日があることを改めて気付かせてくれます。ですから、このような歌が次の世代へも歌い継がれることを願っていますが、めまぐるしく変化する生活形態の中で残念ながら埋もれてしまう歌も少なくありません。未来を担う子どもさんたちには、自然の語らいを聞き、季節を感じながらこころのアルバムのページを重ねてほしいと思うところです。
はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。