ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

韓国の社会保障運動に学ぶ

2023.11.14

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

10月12日から15日まで、韓国のソウルを訪問した。この訪問は、本来は、14日に開かれた第12回東亜(韓国、台湾、日本)金融被害者交流会に参加するのが目的だった。この交流会は、コロナ禍で、3年ぶりにソウルで開かれたもの。私たちは、せっかくなので、「生活保護法」から「国民基礎生活保障法」へと大きく変わった韓国の公的扶助(生活保護)制度変革までの経過を直接現地で伺いたいと考え、事前の12日、13日の2日間、3カ所の運動団体と大学を訪問することにした。

12日は福祉国家ソサイエティ、13日は西江大学と参与連帯を訪ねた。

いずれも、1999年、それまで、恩恵的だった「生活保護法」を国家の義務・市民の権利としての「国民基礎生活保障法」に変え、医療給付、住宅給付などをそれぞれ単独で受けられるようにし、行政が制度の積極的利用を勧めるようになった韓国のドラスティックな「変革」の原動力になったものは、「政策の立案と提案」「幅広い団体の連帯による法制定運動」にあるとのお話だった。

中でも、ソウル市内に5階建ての自前のビルを持ち、45人の専従職員が勤務、250人の弁護士、研究者のサポートを受けている参与連帯から、「国民基礎生活保障法」の内容を幅広い市民の議論の中で決定し、貧困問題に取り組む団体、労働団体、宗教団体など64団体で、法推進連絡会議を作り、各政党に働きかけ、法成立に至った運動の経過を詳細に教えていただいたことは、感動的だった。

また、福祉国家ソサイエティでは、選ばれた人だけに給付するのではなく、全ての人に給付される「普遍主義」に基づいた社会保障制度を確立するためには、まず「子どもの医療費の無料化と給食費の無償化」を各地の自治体で実施し、その有益性を住民に実感してもらうことが重要だと述べられたことは、我が意を得た思いだった。

韓国の運動団体の熱意と戦略に圧倒された訪問になった。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。