2024.04.16
2024.04.16
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠
京都市中京区にある「こどもみらい館」は、開館25周年を迎える市の子育て支援総合センターです。私は館長に就任して8年になります。この間コロナ禍もありいろいろ大変でしたが、ようやく落ち着きを取り戻した今年の春です。
こどもみらい館の前身は、番組小学校として明治2年に創設された長い歴史のある竹間小学校でした。館の前にはかつての校庭を思い出させる整備された竹間公園があります。木々に囲まれた公園は、園児さんたちや小中学生たちで、一日中歓声が溢(あふ)れています。
春休み中のある晴れた日の午後のことでした。館の玄関脇で公園の子どもたちを眺めていると、すぐ近くでボール遊びをしていた小学4年生くらいの少年が、私の横を駆け抜けて玄関ホール脇のカフェレストランに走り込みました。「何だろう?」と様子を見ていると、彼はカウンターの中の女性に声をかけて、そのまま近くの洗面台でゆっくり手を洗い始めました。「まさか子どもが一人で食事をするわけでも?」と興味深く見ていると、少年はまたカウンターに戻りました。するとそこには水の入ったきれいな青紫のコップが一つ。少年はそれを持っておいしそうに飲み干すと、女性に返してペコリと頭を下げ何か言い、また公園へと駆け戻りました。
「あの坊やは水を飲みに来たのですか?」店内に入って女性に聞くと、ニッコリ笑って「ええ。他にもたくさん来ますよ」と答えがありました。「よくあることなのね」「はい。ずっと前から」と、ちょっとびっくりしている私に彼女は、いたずらっぽく続けました。「ただお約束があるんです。ちゃんと手を洗うこと。お礼を言ってコップを返すこと」。
さすが京都ならではの民間の教育力のすごさ!と、兵庫県人の私が改めて感心した出来事でした。
ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。