2020.05.25
2020.05.25
NEN(神経内分泌腫瘍)・カルチノイドの患者会「しまうまサークル@関西」
パソコン上の分割された画面に、緊張気味な会員たちの顔が映し出された。「患者会を始めます」。進行の声がかかり、会員の自己紹介に次いで治療法や療養生活の悩みをめぐる意見交換が始まった。「セカンドオピニオンを聞きたいのですが」「治療法選択で迷っています」…。
「しまうまサークル@関西」が8日の夜、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて初めて開いたウェブ会議形式の患者会。代表世話役の原敬子さん(62)は京都市右京区の自宅で会議の進行役を務めた。活発な質疑が続き、予定の約1時間半はあっという間に過ぎた。
「各地の患者会員がオンラインで集い、実のある議論ができました。希少がんである私たちの病気は診断が難しく、患者数もわずか。『地域で孤独に病気と闘う人の道しるべになろう』と、活動しています。今回を参考に、助け合いの輪をもっと広げたい」。腫瘍手術から10年たつという原さんは、ウェブ会議の成功に表情を崩した。
神経内分泌腫瘍は、ホルモンなどを分泌する神経内分泌細胞に発生するまれながんで、カルチノイドとも呼ばれてきた。発症部位は全身に及ぶが、とくに膵臓(すいぞう)や腸など消化器の深部に起こりやすく、肝臓や肺へ転移する比率が比較的高いといわれる。
10年ほど前まで病名自体がよく知られず、国内には本格的な患者組織も育っていなかった。2012年、大阪で開かれた専門医による医療セミナーに参加した原さんら患者3人が「病気の正しい理解こそ、患者の不安解消につながる」と、患者会の結成を決断。メンバーを募り、翌年から現在の名称を採用した。
活動は年6回の患者会が中心で、うち2回は専門医を招いての医療講演会やセミナーを兼ねて開く。講演を通じ関西電力病院(大阪市)の今村正之・神経内分泌腫瘍センター長(京都大名誉教授)や、滋賀医科大の上本伸二学長(日本神経内分泌腫瘍研究会理事長)ら、専門医や研究者とは幅広い交流がある。
「患者会で学んだおかげで、私も講演の専門的なお話を理解したり、質問さえできるようになり、喜んでいます」。事務局スタッフで、10年前から小腸の腫瘍と闘う京都市内の女性(72)は、患者会の有用性を強調する。
講演会や啓発行事、ホームページを通じた情報発信が奏功して患者会員は現在、北海道から九州まで31都道府県に及んでいる。
会では治療にかかわる医療情報の取得や悩み相談だけでなく、会員の絆づくりや心のリフレッシュを重視。京都の社寺を訪ねたり、京料理などを楽しむ機会も設けてきた。
課題は、まず財政基盤の確立。会費だけに頼らず「確かなスポンサーを探すなどして、会員の多い九州はじめ遠隔地でも医療講演会を開きたい」(原さん)という。広報活動強化へ事務局スタッフの増強も欠かせず、希少がんに理解のあるボランティアを常時、受け付けている。
しまうまサークル@関西
2012年結成の任意団体。希少がんである神経内分泌腫瘍の患者と家族、遺族、医療関係者らでつくる。同疾患への正しい知識の共有・啓発と治療法研究、情報交換を目的に京都市内を中心に活動している。正会員50人を含め登録会員約150人。Eメールinquiry@shimaumacircle.com