2021.07.26
2021.07.26
つるかめ笑顔クラブ「思い出語りの会」
「蓄音機の音に合わせてやりましたよ」「毎回、出席のスタンプを押してもらってね」「そうそう、最終日に賞品をもらうのが楽しみだった」
コロナ対策のフェイスシールド越しに笑顔で向き合う高齢の参加者たち。幼少時代のラジオ体操をテーマにした会話のオクターブが、だんだん上昇していく。今月14日、京都市上京区役所で開かれたつるかめ笑顔クラブの「思い出語りの会」は、コロナ禍で参加者数こそ少なかったものの、話が盛り上がり会場はいつも通りの熱気に包まれた。
クラブ代表の式惠美子さん(81)は、国際医療福祉大学などで教授を務めた認知症ケアの専門家。NPO法人「日本介護予防協会」(東京都)の理事も務める。認知症予防にグループ回想法を準用する「思い出語りの会」を2018年から、上京区で続けてきた。
会場でマイクを握ると、1回約2時間かかるプログラムの司会進行を1人でこなす。「年をとって社会との接触が薄れ人と話さないのが、高齢者フレイル(虚弱)の始まりで、認知症を招く要因です。大勢で集まり、忘れていた遠い思い出を語り合うことで記憶のある脳の海馬が活性化します。1人で話さず、人の話をよく聞き共感して相づちを打つのも大事。仲間意識が芽生え、社会で自分の価値や尊厳を取り戻すきっかけともなるのです」
語り合いは、身体的な効果も大きい。力を込め発声することで口腔(こうくう)や喉の筋肉が鍛えられ誤嚥(ごえん)防止、さらに肺炎防止にもつながるという。
開催は毎月第2水曜日。参加無料で通常は会員20人ほどが集まる。プログラムは、大きな笑い声を出す「ワハハ体操」から始まって、「お口の体操」、季節の花や行事の紹介、目的の「思い出語り」と続き、知的刺激を与えるためのクイズや時事用語解説などもある。
プロジェクターを使って当日テーマに沿った動画や静止画を映し出すほか、昔の写真も壁に張り出され、五感を通じて理解を促し、楽しく過ごせる仕掛けが施されている。
これまでにコッペパン、チャンバラごっこ、市電、銭湯など1回ごとに異なるテーマが用意され、ラジオ体操を取り上げた今月の会場では、「ラジオ体操の歌」を合唱してから語り合いが始まった。
10回目の参加という女性(82)は「疎開先でのラジオ体操を思い出しました。この会は大勢で楽しく話せるのが魅力。幸せに健康でいられるありがたさを実感させてくれます」と話した。
活動内容が認知症予防、介護予防につながり、市の政策目標「健康寿命の延伸」に合致することから、「思い出語りの会」は上京区のまちづくり活動支援事業にも採択された。
活動を広く普及させるため今後は「上京区外での開催や、理論と実践の記録を本にまとめてみたい」(式代表)とする一方で、現在のコロナ禍に適応したプログラムも検討。タブレットなどの音訳機能を生かし、会話を文字化することで聴覚障害のある人たちを含め、さらに多様な層の参加を可能にすることも考えている。
つるかめ笑顔クラブ
千葉県で介護予防の地域活動に励んでいた式惠美子さん(医療福祉学博士)が、京都市へ移住後の2018年に設立。千葉での活動仲間だった上西三郎さんらが加わり、認知症予防の「思い出語りの会」を月1回開催している。一昨年、京都市が選定する健康長寿のまち・京都いきいきアワード2019を受賞。スタッフ8人、会員30人。連絡先080(1107)9226