ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

互いに考え知恵出し合う/家族の負担軽減や子の支援(2021/08/17)

2021.08.17

  • 広がる 地域の輪

京都の医療的ケアを考える会(KICK)

声楽家の青野浩美さんを招いて開いた親子コンサートを楽しむKICK会員と子どもたち(2019年9月、京都市下京区)=提供写真

京都市内の総合支援学校に通う児童のうち、たんの吸引など医療的ケアが必要な子どもは、スクールバスを利用できない。車内でのケア体制が整っていないためで、家族が自ら送迎している。「なんとかできないか」保護者たちの切実な声が、3年前のKICK設立のきっかけとなった。

医療的ケアは、呼吸と排せつ、栄養注入などで援助や機器を必要とする人を、周りの家族らが世話する行為。たんの吸引や胃ろう、人工呼吸器などが必要な子どもたち(医療的ケア児)は、約2万人いる(2019年、厚労省調べ)とされる。

「毎日の車送迎に加え、担任の先生が替わる新学期ごとに親は1~2週間、教室に入りたん吸引などの付き添いを求められます。修学旅行も同じで、結果として私たち母親は常にスタンバイ状態。外で働きたくても、現実にはほぼ不可能なのです」。KICKの設立メンバーで、長男(11) を市内の総合支援学校に通わせる神農三菜子さんはそう話し、必要な情報が家族に直接、届けられるルート作りや相談支援態勢の充実を訴える。

家族の負担軽減と子どもへの支援拡大に、KICKは設立直後から医療関係者や総合支援学校の経験豊かな保護者を呼んだ勉強会を重ねた。問題点を整理するうち、京都市教育委員会や総合支援学校と正面から話し合う必要性を認識。「交渉や要求を突きつけるのではなく、互いに考え知恵を出し合う形」を原則に臨む方針を決めた。

活動を知った市教委側からのアプローチもあり、一昨年夏には双方の考えを率直に話し合う最初の場が持たれた。市立北総合支援学校(上京区)では、親の迎えの車が到着する時間を変更する問題で、話し合いによる解決が実現した。

医療的ケア児の実状は一般にはよく知られず、「当事者から遠い市民にこそ知ってほしい」と啓発には、特に力を入れてきた。啓発と交流を兼ねたコンサート、講演会には必ず子どもたちが参加。困難にめげず遊んだり元気に声を出す姿を見てもらい理解を促している。

活動に協力的な京都光華女子大や花園大の福祉系学科とは緊密な連携があり、学生たちにKICKの金野大会長(38)が医療的ケア児について講義したこともある。コロナ禍に対応して昨年、KICKから市内の総合支援学校に手作りの防護服1500着を贈った際は、花園大生らが製作に協力。理解者の数は徐々に広がってきた。

今年6月、「医療的ケア児支援法」が成立(9月施行)。子どもたちの生活を社会全体で支える趣旨で国、自治体には支援措置が義務付けられた。

KICK事務局は「京都でも実のある具体策が出てくるよう働きかけていくのが私たちの役割。関係機関の方々は私たちを対話、協調ができる相手として捉えてほしい」と期待をかける。今後の活動については「医療的ケア児が、望むように生きられる社会考える、という原点を大切にしたい」(金野会長)としている。

京都の医療的ケアを考える会(KICK)
 2018年、医療的ケア児を支援学校に通わせる京都市内の4家族で結成。家族の負担改善と子どもたちへの支援充実に取り組み、イベントやコンサートを通じ社会一般への啓発も続けている。正会員は33家族。京都府外からも入会可。Eメールrbmz92800@yahoo.co.jp