ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

手作りのやきもの中心に

2021.09.06

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社会福祉法人/信楽くるみ福祉会理事長/鈴木 隆博さん

「コロナ禍を克服して働く喜びを一層、実感してもらえる作業所にしたい」と語る鈴木隆博理事長(甲賀市信楽町長野・信楽くるみ作業所)

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

 私たち信楽くるみ福祉会の「信楽くるみ作業所」にとって、新型コロナウイルスの感染拡大は開設40年目に遭遇した、かつてない試練です。やきものの産地にある福祉事業所として、粘土から手作りしたやきものの販売を中心的な仕事にしていますが、昨年から注文が急減しました。

 売り上げはすべて利用者さんの工賃に充てているので、事態は深刻です。どう乗り切り、「仲間づくりと、働く喜びがあふれる事業所」として継続させ、次のステップにつなげるか。悩みながらも難局打開へ職員ともども全力で取り組んでいます。

 作業所は、昨年95歳で他界した私の母つや子を抜きには語れません。教員だった母は信楽の小、中学校に37年間勤務。障害児学級を長く担当したことから、中学卒業後に行き場をなくす教え子たちを見かねて1982年、自宅に無認可の共同作業所を開設しました。57歳で早期退職しての決断でした。

 子どもたち数人と、地元のゴルフ場で使うお絞りタオルを洗濯する仕事から始めたのを覚えています。母は地域に支えられその信頼も得ながら作業所に身命をささげ、施設移転や設備刷新、新事業の開拓など89歳まで仕事を続けました。

 2005年に社会福祉法人となり作業所は現在、就労継続支援B型と就労移行支援の事業所指定を受けています。職員は5人、利用者さんは10~60代の22人で、障害の種別を問わず受け入れています。

 一人一人の個性を見極め楽しく仕事ができるよう、オリジナルのやきもの製品は、利用者さんがデザインを考案して粘土をこねます。鬼の面、陶板、ランプシェードなど大小さまざまで、独特の味わいがあります。所内には複数の電気窯を備え、どんな形でも焼成できる態勢です。

 製品は信楽高原鉄道の信楽駅前で開く毎春の陶器市をはじめ、地元の各種イベントで販?売。確かな収入源になっていたのですが、この2年はコロナ禍で出品の機会がほとんど奪われました。昨年は県や甲賀市から、桔梗(ききょう)紋ピンバッジなど特注品の依頼をいただき、急場をしのぐことができました。

 教員一家に育った私は、大学卒業後に英語教員となり滋賀の県立高校などに勤務。早期退職した後、19年に信楽くるみ福祉会の5代目理事長に就きました。就任は作業所を支えてくださった方たちへの恩返しと、働きづめの母を十分支えられなかった、との思いからでした。

 美しい田園地帯に建つ作業所は将来、高齢者も気軽に立ち寄れる地域の交流の場にできたらと考えてきました。カフェを開き利用者さんや製品とも触れあえるようにするのが理想です。創設以来、無借金経営を貫いてきたので資金調達は課題ですが、宿願のグループホーム建設を含め、コロナ禍後の大目標に定めています。

すずき・たかひろ
1954年、甲賀市信楽町生まれ。同志社大卒。77年、滋賀県立石部養護学校(現三雲養護学校)教諭を振り出しに、草津東高、水口東高などに勤務。55歳で退職後の2013年から6年間、保護司を務めた。17年、信楽くるみ福祉会理事に就任、19年から理事長。甲賀市信楽町長野。