ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

望む仕事で輝ける場所を

2021.11.02

  • 来た道 行く道

NPO法人/「障害・高齢者就労支援センターLINK’S」理事長/  熊本 眞知子さん

亀岡市内に4カ所ある農園の一つで、菜の花の生育状況を確かめる熊本眞知子理事長(10月26日)=提供写真

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

 「障害や病気などの困難を抱えても、人は働くことで社会とかかわり生きがいを見つけたいと望んでいる」。身近に起きたある「事件」を機に、そう確信した私は、障害のある人たちが就きたい仕事で能力を発揮できる機会の提供を、ライフワークにしようと決意。2015年、亀岡市内で始動させたのが「LINK’S」(亀岡市大井町)です。

 地元に農地を借り、まずブルーベリーの無農薬栽培を手がけたのが最初。次いで有機菌床シイタケや菜の花、万願寺とうがらしなどの栽培、ホンモロコ養殖、昆虫食事業(コオロギ養殖)にも乗り出しました。就労継続支援A型事業の認定を受け、現在は4カ所、計0・8ヘクタールの農地や事務所で18人の利用者さんが自分に合った作業を選んで働いています。農福連携の事業にしたのは、亀岡の気候が野菜栽培に最適と聞いたからです。

 LINK’Sの就労支援は「仕事の速さは求めないが、働く以上は高い報酬を目ざし『親亡き後』も自立可能な収入レベルに達する」という考え方です。収益を生み出す確かな仕組みと財務計画を立ててきました。幸い、昨年は前年を上回る売り上げを達成。利用者さんの賃金も最高で約15万円の水準をキープしています。

 京都市内の銀行に勤めていた私は、24歳で結婚。2児の母として主婦業に専念していました。1993年、夫(3年前に他界)に肺がんが見つかったのが転機でした。入退院が続き、以前勤めた銀行へパートに出た私に、支店長が勧めてくれたのです。「君には起業が向いている」

 一念発起でファイナンシャルプランナーの資格を取得。飲食店チェーン本部の経営診断を担当している時、「1店、経営してみないか」と誘いを受けました。おすしやうどんの店でしたが、やってみると軌道に乗り京都、滋賀で6店舗まで拡張。年商3億円以上の事業に成長したのです。

 「事件」が起きたのは、経営者として飛び回っていた2005年です。近所に開店したスーパーから自宅へ、なぜか不採用通知が届きました。がんの転移で歩行さえ困難な夫が、パート店員の面接を受けていたのです。震えるほどの衝撃でした。「孤独感と働きたいという夫の思いをよそに私は何をしていたのだろう」

 すぐに飲食事業を閉鎖。夫の心情に報いるためにも「困難を抱える人たちの就労支援」にかじを切り直そうと、府立京都障害者高等技術専門校(京都市伏見区)の支援員に応募。7年間勤め就労訓練と就職のためのノウハウを教えました。亀岡でLINK’Sを始動したのは、亀岡から通う専門校生たちの話で、働く場が少ない地域と知ったからです。

 事業が軌道に乗ったのは、桂川孝裕亀岡市長ら、多くの方々の協力があったればこそ。感謝を忘れず、今後もこの地域で多様な職種をそろえ、障害のある人が自分の望む仕事で輝けるよう、力を尽くしていくつもりです。

くまもと・まちこ
京都市生まれ。夫の闘病を機にファイナンシャルプランナー資格を取り京都、滋賀で飲食店を経営。2014年、京都市でLINK’Sを創業して障害がある人の就労支援に乗り出し翌年、亀岡市に本拠を移した。京野菜栽培などの事業のほか、関連会社で障害者の職業訓練受託事業なども手がける。大津市在住。