2021.03.22
2021.03.22
成実 (なるみ)憲一(けんいち) さん
春めいた日差しが気持ちよい3月の午後。京都市上京区の京都御苑に、写真を撮り合う2人の姿があった。障害のある人の外出などを支える一般社団法人ヴァリアスコネクションズ「ツナガリの福祉所」代表の成実憲一さん(50)と、その利用者だ。木々や光、互いの姿にカメラを向け、笑顔で同じ時を過ごす。「外に出てたくさん歩くと、人や自然や、いろいろなものと出あえる。障害のある人や生きづらさを抱えた人が、社会とつながる機会を増やしたくて」
大学では美術教育を学んだ成実さん。障害者福祉の事業所に入り、芸術活動に取り組んできた。17年間同じ事業所に勤め、2013年に「ヴァリアスコネクションズ」を設立。18年に法人化した。自身の原点でもある芸術と福祉を組み合わせ、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの移動支援や行動援護の事業を展開。写真作品や絵画の制作をしたり、美術館をめぐったり、利用者と積極的に外に出かけ、現在は約40人が利用している。
利用者は、知的や精神に障害のある人たちだが、成実さんの考える「障害」の概念はもう少し広い。「自分自身というよりも、社会に出ようと思うときにいろいろな障害があって、それは、子どもやお年寄りや、何か困難を抱えた人が感じることもある。それらの壁を取り除くことは簡単ではないけれど、例えば芸術のような手段を使って、気がつけば障害のあるなし関係なく一緒にいるような場づくりをめざしています」
利用者が撮った写真や美術作品は、展覧会などで多くの人に見てもらい、感性にふれてもらう機会をつくっている。障害のあるなしや年齢を超えて「目をつむる」写真を取り合うプロジェクトにも取り組み、写真展は注目を集めた。いろいろな人の存在を感じられる、その人と自分がつながっていると思えることを大事にしている。
「福祉って、みんなの幸せを願うことであったりとか、多様な価値観を認めたりすることなのかなと思うんですよね。そういう点では、芸術と近さを感じます」
父親が要介護になり、頭をよぎったことがある。「自分や自分の子どもたちが同じ状況になったとき、国や社会や地域は、どうなっているんだろう」。どんな人も老いは避けられず、将来は老いとともに生きていく。そのときに自分たちが暮らしていたい社会について、考えた。「社会は、自分や身近な人の生活を思う人の総体。そういう意味では、利用者のことも思うし、自分や家族の未来も思う。自分が身を置きたいのは、困難を抱えていても人とつながれる社会だし、多様な人がいて、少しくらい大目に見てもらえる社会の方がみんなが生きやすいはず」
活動の原動力は、「みんなといい一日を過ごしたい」という思い。いいときばかりでなく、利用者がつらそうな表情を見せる日もあるけれど、そんなときは「次はどうすればいい時間を過ごせるか」を考える。「将来の夢もあるけれど、人と出会えば自分も変わっていく。だから、大切にしているのは『今このとき』の積み重ね」。活動が終わり、笑顔で「また次ね!」と言えることが何よりの喜びだ。