ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

課題を社会化、政策提案へ/(21/10/25)

2021.10.25

  • わたしの現場

中島 円実(なかじま・まるみ)さん

若者支援について語る中島円実さん(守山市守山・マザーボード)

 困難を抱えた18歳以上の若者を地域で支える「滋賀県地域養護推進協議会」が今年4月、守山市に誕生した。滋賀県独自の組織で、孤立しがちな若者の自立に向けて複数の機関が連携する試み。事務局長に就任したのが、長年大津市で子ども家庭支援に取り組み、スクールソーシャルワーカーでもある中島円実さん(58)だ。

 「親を頼れずに育った若者は、金銭感覚が育っていなかったり、助けてほしいと言えなかったり、さまざまな難しさがある。それらの課題を一つ一つ、協議会のメンバーと考える日々で、手探りだけど大きな可能性を感じています」

 同協議会は、困っている若者全般を地域で見守り育てる「地域養護」を掲げ、県や市町の社会福祉協議会、児童養護施設などが構成団体となり設立。NPO法人四つ葉のクローバーが開所した若者の拠点「マザーボード」内に事務局を設けて県の委託事業としてスタートし、教育や司法などの機関にも参加を呼びかけている。

 事業の柱は大きく二つ。若者食堂も開催する居場所機能と、相談支援だ。児童養護施設や市役所などから紹介された若者の話を聞いたり、必要な機関につないだり、食料を届けるなどサポート。中島さんは、構成団体から出向してきたコーディネーターへの助言や管理業務、対外的な対応も担っている。

 今はどっぷり「福祉の人」だが、もともとは理系。化学系の企業に就職後、自身の育児の大変さから母親支援の必要性を実感し、社会福祉士を目指して大学で学んだ。40歳から17年間、非常勤で大津市の子ども家庭相談室に勤め、子育てに困難を抱える母親の支援や虐待ケースの対応に励んだ。

 「児童虐待は児童相談所がやると思われているけれど、情報収集や調整、虐待防止のための育児支援など、市町の非常勤職員も重要な仕事を担っている。なのに仕事は評価されず、熱意があっても何も変えられなくて悔しかった。どうすれば現場の声が届くのか悩みました」。違う場所から子どもや福祉を見てみようと、今年春に退職。同協議会の事務局長とスクールソーシャルワーカーという新しい二足のわらじを履こうと決めた。

 中島さんが考える同協議会の役割は、「個人の課題を社会化する」ことだ。「一人を支援するケースの積み重ねから、社会の課題をあぶり出して政策提案までもっていく。その構図ができれば、一人一人の支援の質も変わってきます」。持論は、「社会福祉は科学」。ミクロとマクロ両方の観点から、人々の幸せに向けた仕組みを論理的に作りあげる部分に強くひかれている。

 「長年家庭支援に携わり、子どもや福祉のことをわかったつもりになっていたけれど、なんて狭い世界を見ていたのか」。新しいスタートを切り、そう気づいた。虐待を受けた子どもが入所した施設での暮らし、学校の先生の喜びや苦労、保護者一人一人の気持ち…。日々発見がある。「親子や若者を取り巻く環境の未来を悲観していたけれど、見えていなかっただけ。以前の自分のように狭い世界で懸命にやっている人たちはたくさんいて、一緒に本気で考える場がある」。これからの展開を楽しみにしている。

(フリーライター・小坂綾子)