ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「どんな最期でも宝物に」/緩和ケア中心に訪問看護(21/11/22)

2021.11.22

  • わたしの現場

濱戸 真都里(はまと・まつり)さん

利用者の自宅に訪問し、マッサージをする濱戸真都里さん(京都府井手町)

 独居の高齢者宅で女性の背中をさすり、緩和ケア認定看護師の濱戸真都里さん(58)が語りかける。「ここ痛いかな? 疲れてはるね」。横たわりながら、「気持ちええわあ」と笑顔を見せる女性は94歳。濱戸さんが京田辺市で運営する緩和ケア訪問看護ステーション「架け橋」の利用者だ。女性のような身の回りのことは自分でできる要支援1の高齢者から、末期がんの患者まで、地域住民の看護に通うのが濱戸さんの仕事だ。

 「人生の最期に現れるその人の生きざまにふれると、心を揺さぶられます。それが原動力ですね。痛みや苦しみを取り除くと、輝いていた頃のことを語りながら目がキラキラされていくのがわかる」

 「架け橋」は自宅での終末期ケアを中心とする事業所で、看護師4人が山城南部地域の40人ほどの患者を担当する。がん患者のほか、慢性の病気をもつ高齢者や、摘便が必要な認知症の人も利用する。病院や医師からの紹介を受け、病状や家庭の状況に合わせて定期的に訪問、体調や服薬を管理している。

 濱戸さんが終末期ケアに関心をもったのは新人の頃。がん患者が多い病棟で、まだ痛みをとる医療用の麻薬が普及しておらず、もがき苦しむ患者の姿に心を痛めていた。地域の診療所で訪問看護を経験して地域ケアの重要性にも気づき、大学の通信課程で社会福祉士の資格を取得。その後、訪問看護ステーションで緩和ケアに携わり、技術不足を痛感したことから緩和ケア認定看護師の資格を取得し「架け橋」を2009年に開設した。

 緩和ケアの訪問看護では、患者と家族の思いを受け止めて支える。24時間の対応だが、夜間に苦しくならないよう薬を調整したり、苦しい時の家庭でのケアを伝えたり工夫を重ねる。また、病状が差し迫ると日を空けず訪問し、家族の不安を取り除く言葉もかける。

 「今必要とされていること」はさまざまだ。心を閉じている患者には、「心地よい」ケアを家族と一緒にすることで心を開いてもらう。また、自宅で最期を迎えたい患者と負担を避けたい家族の意向が違ったら、双方の希望をかなえられる方法を真剣に考え、負担軽減のサービスを丁寧に説明し、信頼関係を築く。別れの瞬間を受け止められずに混乱していた夫婦には、抱擁を促し、後悔のない最期を迎えてもらったこともある。

 「人が最期を過ごす時、患者さんやご家族の潜在力が発揮される。感動しますし、その場を共にできる感謝の気持ちを自分の言葉で伝えます」。治療不可能な絶望から前を向こうとする人、家族の不和があっても最期は心穏やかに感謝を伝える人。家族を困らせ続けた人にも、困らせられながらも力を振り絞って看(み)取った家族がいる。「どんな最期でも宝物に思えるのです」

 在宅緩和ケアでは「看取りのコーディネート力」も重要といわれる。ここで問われるのは心のあり方だ。「看護師は『教える』という視点をもちがちだけれど、背景や心情、大切なことを感じ取る力は、患者さんや家族に育てられていることを忘れてはいけない。支えているようで、実は私たちも支えられているのです」

(フリーライター・小坂綾子)