2022.01.24
2022.01.24
平井 万紀子(ひらい・まきこ)さん
おそろいのエプロンをつけた「キャスト」と呼ばれる認知症のお年寄りが、1日だけ借りたレストランやカフェを会場にランチや喫茶の注文を聞き、配膳し、食後の食器回収まで行う。時にお客さんと談笑も。時間がかかったり間違えてもいいでしょ、という「まあいいかcafe注文をまちがえるリストランテ」を府内各地で企画・開催している団体「まあいいかlaboきょうと」(京都市伏見区)。1人で始め代表を務めるのが平井万紀子さん(57)。
キャストは、実母の鈴木晏(やす)子さん(86)はじめ、会場の広さや企画次第で変動はあるが、各回数人から10人以上参加している。そばにつく介護者は「介助をやりすぎないよう」気を付けている。間違えたりしても、周囲も「まあいいか」と受け入れる。それが団体のネーミングにも。
70半ばまで車を運転して品物を配送する仕事を続け、1人暮らしするほど元気だった晏子さんに、道が分からなくなったり、配送先を間違えるなどの症状が出て、軽い認知症と診断されたのが約10年前。その後、平井さんの自宅で同居を始めたものの、まだ体は元気で家事をはじめ何かと働きたがる母親を、「うまくできないからと制止しながら、四六時中一緒にいるのは、ある意味、重荷だった」と平井さん。一方で、母親のできること、やりたいことをやらせたいとの思いもあった。
ただ、それまで地域活動や福祉ボランティアなどをしたことがなく、認知症にも関心はなかったので、具体的に母親に何をしてもらえるかは、分からなかった。2017年に東京で開かれた「注文をまちがえる料理店」という企画に参加したのを機会に、京都で自分なりに同趣旨の企画を開くことを決断。翌年3月にはスタートした。18年に6回、19年には9回と回数を重ね、延べ千人以上の参加を得た。
最初は、SNS(会員制交流サイト)などで発信し、つてを頼り、賛同してくれる店や商業施設、百貨店の食堂などを会場に、口コミでも広めボランティアや客としての参加者が毎回数十人、大規模の時には300人ほど集まったことも。「こういうことには知識も経験もなかったけれど、いろんな人が力を貸してくれて、人と人とがつながっていくことも楽しいし、意義も見いだしている」と話す。
20年5月には大手企業の社員食堂を会場に企画したが、全国的に新型コロナウイルスの感染が拡大し、開けなかった。その後も計画しながら「コロナ禍」で実現できてはいない。約3時間の「リストランテ」の開催も、20年が3回、21年が2回、と大きな影響を受けた。とはいえ、延べ開催は20回、参加者合計も約1550人になっている。始めたころは、福祉関係者の参加が比較的多かったけれど、そうでない人にも認知症を知ってもらいたいと思って続けてきた。「段々そういう方向に来ていると思うし、結構いろんな人が認知症に関心を持っていることも分かった」とも言う。
「認知症は、何もできなくなる人ではない。できることはある。社会参加できる場をつくりたい」。「リストランテ」実施の輪が広がって、少しでも収益が出るようにでもなれば、さらに継続していける、と構想も広がっている。