2022.02.15
2022.02.15
木ノ戸 昌幸(きのと まさゆき)さん
京都市北区上賀茂にあるNPO法人「スウィング」の拠点施設に、毎日さまざまな障害のある人たちがやってくる。詩を書いたり、コラージュ作品をつくったり、創作活動に取り組む自由な空間。作品は、ときにアートグッズや発行するフリーペーパーにも変身する。これらの芸術創作活動は、名付けて「オレたちひょうげん族」。このほかにも、清掃活動など、狭い「障害福祉」の概念を超えた多彩な市民活動に取り組んでいる。
「世の中をより良く、より面白く」というのが、スウィング流の社会福祉。理事長である木ノ戸昌幸さん(44)は、「障害のある人もない人も一市民」であることを大事にする。「利用者も職員も、福祉の主体者として、一緒に社会をよくするために動く。障害者福祉サービス事業を使っているけれど、本当なら、そのカテゴリーからも離れていたいですよね」
人を生産性で測らない組織をつくろうと、2006年に法人を設立。職員約10人、利用者29人が所属し、生活介護事業を行いながら、制度が規定する「障害者」や「福祉」の枠にとらわれない活動を展開する。
幼少期は勉強ができ、学級委員も務め、周囲から評価を得やすい子どもだった木ノ戸さん。だが、「もし評価されなくなくなったら」という恐怖が常につきまとい、社会のものさしに疑問を抱くようになった。大学時代に不登校問題を考える講演会に参加したのをきっかけに、既存の価値観に自分を合わせて生きるのをやめようと決意。「障害のある人に関わる仕事は毎日笑えるよ」という友人の言葉に、「『笑っていたい』という理由で人生を選んでいいんだ」と開眼し、障害者福祉の世界に飛び込んだ。
スウィングには、さまざまな「笑い」があふれる。利用者と職員が戦隊ヒーローにふんして月1回清掃活動をする「ゴミコロリ」も、バス停での交通案内プロジェクトも、面白がりながら社会貢献する試みの一つ。そこには、成果物やお金をより「速く」「多く」生み出すことを肯定するような文化はない。
昨年9月には、拠点施設に「スウィング公共図書館」をオープンさせた。利用者が受付を担い、地域の子どもたちや住民がふらりとやってくる。壁一面に約2400冊の本が並ぶが、本を読んでも読まなくても自由。「スウィングを、だれでも利用できる垣根の低い場にしたい。福祉って障害のある人だけのものではなく、みんなのもので、すべての人が幸せに豊かに暮らしてほしい」との思いがある。
活動を通して目指していることの一つは、「やのに感」の払拭(ふっしょく)だ。「障害者やのに頑張ってる、女性やのに社長、などの表現は、人にラベルをつけて『できない』と決めつけるから生まれるのではないでしょうか」。本当は、だれが上でも下でもない、というのが持論だ。
夢や目標がなくてはいけないような風潮にも疑問を唱える。「目の前のことをやっていたら、15年前には想像もしてなかった図書館ができた。だから、夢なんかなくても、大丈夫って伝えたい」。その言葉に、多くの人が元気をもらっている。
(フリーライター・小坂綾子)