ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

愛着を構築、心の支えに/児童養護施設の「お母さん」(22/03/15)

2022.03.15

  • わたしの現場

牧田 愛(まきた・あい)さん

子どもたちの洗濯物をたたむ牧田愛さん(3月1日、大津市平津・湘南学園)

 大津市平津の京滋バイパス横に、親と暮らせない子どもが毎日を過ごす児童養護施設「湘南学園」がある。主幹を務める牧田愛さん(46)は、まるで大家族のお母さん。「掃除、洗濯、炊事のほか、勉強をみたり一緒に遊んだり。口うるさくお世話を焼くので、子どもたちからは『またおかんが始まったで』と冷やかされます」

 湘南学園は、幼児から高校生までの男女約30人の「家」。年代ごとに生活し、職員約40人が、シフト制の24時間態勢で子どもの日常を支えている。入職24年の牧田さんは、幼児から高校生までさまざまな年齢を担当し、現在はフリーの立場で柔軟に動いている。

 この職業を選んだのは、「子どもが好きだったから」。だが入ってみると、「好き」という簡単な言葉では片付けられない現実があった。「私が見ていた子どもは、幼稚園や学校の外向けの姿。施設は生活の場で、ここでの顔は全く違う。でも、だからこそ面白い」

 学園の子の多くは虐待を経験している。「暴力が肯定される日常の中で育ち、暴力が肯定されない文化を受け入れるのに時間がかかる子もいる。自分とは『当たり前』が違うことを前提に向き合います」。落ち着かなくなると、根気強く、暴力以外の方法を一緒に考える。特効薬はなく、対話の繰り返しだ。心のケアが必要な子もあり、保護者の対応も担うため、職員の心の安定も重要だ。

 親との愛着関係が築けなかった子も多く、幼くして入った子とは愛着の構築を試みる。「大事に思えた人が離れていくのを恐れ、あえて人に近づかない子もいる。普通の会話はしても、本当の心配事はだれにも言わない」。そこを超えるのに時間がかかるが、特定の職員と近づけるなどの工夫もし、少しずつ本音を話す子もある。「その人がそばにいなくても、心の中にいて自分で頑張れるのが本当の愛着関係。そういう存在が一人できると子どもは変わっていきます」

 中高生からの入所は、残り少ない中でのサポートゆえの難しさがある。「本人が抱える悩みを解決するだけの時間がないため、一人の大人として社会に出られるようにケアします」。進学や進路選択を支援し、一緒に生活を整える。

 意識しているのは、「わかる」と言わないことだ。「子どもを知るほど、その子のつらさは一生かかってもわからないと思う。わからないけれどわかりたいと思っている、と伝えています」。もう一つは、「親ではなく、親にはなれない」こと。「預かっている子である」という責任を常に感じている。

 仕事を省みるのは、普段の何気ない夜。「子どもの寝顔を見ていると、本当によく頑張ってるなと思う。支える自分なんかより、子どもの方がずっと偉いですよね」。自分も頑張らなきゃなと励まされる。

 今後取り組みたいのは学園のイメージの転換だ。「会ったこともないのに勝手な想像で『大変な子』と線引きされる。けれど、何も悪いことをしてないし、特別な子たちじゃない。職員も、特殊な職業ではなく、働きやすい職場づくりがすすんでいる。もっと知ってもらい、幅広い人たちと一緒に学園の生活をつくっていきたい」

(フリーライター・小坂綾子)