2023.07.31
2023.07.31
三王寺 慎太郎(さんおうじ しんたろう)さん
障害のある人たちが、地域でたくさん笑えるように―。そんな思いをもちながら、京都市山科区で就労支援に取り組む人がいる。一般社団法人「Solaco」代表の三王寺慎太郎さん(48)。知的障害のある中学生の息子を育てながら、2カ所の就労支援B型事業所を運営し、障害のある人のさまざまな働き方を模索している。
「大事なのは、事業所内で完結させないこと。ただここに集っているだけだと、ダイバーシティや多様性という言葉は当てはまっても、インクルーシブ(社会的包摂)にならない。事業所自身が地域や企業とつながっていきたい」。地域と一緒に楽しく生きていられる環境づくりを目指す。
もともと飲食店を経営していた。息子の障害がわかり、「将来、この子と一緒に店をやるのは難しい」と感じたことから現在の事業を始めた。「息子の幸せのために何ができるか」と考え、13年間続けた店を閉め、就労支援に軸足を移した。
2016年に山科駅前のB型事業所「SOLACO」を、2年前に御陵駅近くの「SOLACOnext」を開所。SOLACOは主に精神障害や身体障害のある人が電子部品の組み立てなどを担い、nextでは知的障害のある人が古新聞の加工や畑作業などに取り組む。ケータリングと弁当の店では、利用者が報酬を得ながらハンバーグ作り。計35人の利用者が、それぞれに合った仕事や余暇活動をする。事業所の代表と障害者の親、双方の気持ちが交錯し、「親亡き後」の視点も常にある。見据えているのは、障害のある人が十分な収入を得て自分の力で暮らせる未来だ。「そのためには工賃アップへの努力も必要で、同時に、親の意識も大事。親としては、ステップアップでわが子を冒険させるより今のままが安心だと思う。その気持ちはよくわかるけれど、親が安心したいことと、子どもにとっての幸せは別の問題ではないでしょうか」
目指す未来のためには、企業での就労は鍵になる。中小企業家同友会の会員らと意見を交わす。担当する京都橘大学での授業でも「障害者と企業がどうつながるか」などのテーマで話す。人手不足の中で障害者が戦力となるような方策や職場適応を支えるジョブコーチの活用について学生と考えることも。「私たちの世代とは意識が違う。これからの社会を変えるのは若い人たちだ」と実感する。
当初は息子のことばかり考え、泣きながら必死で事業を進めてきた。うつ状態になり体も壊す。息子の一言にハッとした。「『そんな頑張らんでも』って言われて楽になれた」。思いきって経営の勉強会に飛び込み、「大事なことは何か」と経営理念を考え直したことが転機になった。
この先10年の構想は、就労環境やシェアハウス方式の住まい、日中活動を地域に根ざす形で整え、良い循環を生み出す「村」づくりだ。「わが子を幸せに、ではなく、地域を幸せに。そうでなければ、一人で幸せになっても孤立するだけですから」。気づきのきっかけをくれたのは息子。「子どもに育てられている」と感じる日々だ。
(フリーライター・小坂綾子)