ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

生きる喜びにつなげたい/らしくないカフェで出会い提供(23/12/18)

2023.12.18

  • わたしの現場

中川 真衣(なかがわ まい)さん

利用者とともにカフェで手作りの菓子を提供する中川真衣さん(中)=京都市中京区、リ・ブラン京都中京。 画像の一部を加工しています

 京都市中京区の三条通沿いに、社会福祉法人白百合会が運営するカフェ「リ・ブラン京都中京」がある。商業地区の一角で、一見すると福祉の事業所には見えないが、就労継続支援B型事業所だ。1階はカフェ、2階は刺繍(ししゅう)や手織りなどの作業場がある。中川真衣さん(30)はカフェ担当のスタッフで、利用者とともにケーキや焼き菓子をつくり、新商品を開発したり、こだわりのコーヒーなどカフェメニューを提供している。

 「実は福祉の事業所なんだ、という感じで見てもらえれば嬉(うれ)しい。一般企業の製品と遜色ない商品を作っていることは、利用者さんの自信にもなり、生きていく上での喜びにもつながっていくと思うのです」

 白百合会は、聖マリア養護学校の卒業生を中心とした「重度身体障害者マリアの会」が前身で、1984年から活動。リ・ブラン京都中京とリ・ブラン京都西京の二つの事業所を運営する。

 中川さんが白百合会に出会ったのは4年前で、それまでは別の仕事に携わってきた。幼少期から菓子作りが好きで専門学校に進むか悩んだ末、大学で心理学を学び高齢者施設に就職。「その人らしく生きられるように照らす仕事は素敵だな」と福祉に関心をもちつつ転職し、やりたかったカフェや販売の仕事を経験した。そこで障害のある客と出会い、再び福祉職に心ひかれるようになった。

 「障害のある人と話すのは楽しかった。けれど、店以外で出会う機会がない。その人たちも同じように生活をしていることを忘れていたと気がついて」。福祉の仕事を調べる中で、「ここならカフェの仕事もできて、地域の人と障害のある人が出会うきっかけもつくれる」と、白百合会に入った。

 利用者とは、「障害のある人」ではなく「○○さん」として接する。「できないことや苦手なことがあるのはわれわれも一緒。例えば私は刺繍は苦手。でも利用者の皆さんは、すごく細かい作業を、集中してやっておられます」

 粉砂糖をシフォンケーキの上にふわっとかける方法、ケーキの横に置くジャムの量、おいしそうに見える置き方などを丁寧に手ほどきする。「まず一緒にやって、今日はできなくても、少しずつできるようになれば、最後は1人でできる。ケーキセットがおいしそうに見えれば『すごい』と思うし、私の顔に出る」。中川さんの表情の変化が、利用者の自発的な動きを促していく。

 シフォンケーキで大きな穴が開くと悔しい。クッキーをきれいな形で焼けたら嬉しい。「そういう気持ちは私も利用者さんも同じ」。互いに高めあい、できることが増える喜びを大事にしている。

 白百合会は、夕方の時間を活用して地域の子どもたちの学習支援や居場所づくりの事業にも取り組み、来年春に新しいコミュニティーカフェをオープンする予定だ。地域の福祉課題を解決するための拠点を目指して、ここでも新メニューの開発などを手掛ける。

 「福祉のイメージではないカフェ。だけど、地域福祉に関心をもつきっかけになる。そんなお店にしていければいいですね」 (フリーライター・小坂綾子)