ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

挑戦や小さな失敗後押し/青少年の居場所づくり(24/01/22)

2024.01.22

  • わたしの現場

大熊 晋(おおくま すすむ)さん

顔見知りの青少年たちと談笑する大熊晋さん(京都市伏見区・伏見青少年活動センター)

 土曜日の午後、京都市伏見区の市伏見青少年活動センターに、イベントを企画した大学生と参加する中高生らのにぎやかな声が響く。様子を見守る大熊晋さん(51)は、ここの所長だ。居心地の良さを求めて学校終わりに通っていたり、何かモヤモヤしていたり、困りごとを抱えていたり、多様な若者が集う。居場所運営とプログラムの企画のほか、話し相手になるのも大事な仕事だ。「元気な時も調子の悪い時も安心して来られて、なりたい自分に近づく後押しをしてもらえる場所だと思ってくれればうれしいですね」

 中学生から30歳を支える青少年活動センターは、京都市ユースサービス協会が運営し、市内に7カ所ある。伏見のテーマは多文化共生で、オープンスペースが広いのも特徴だ。このスペースを活用した「ロビーワーク」と呼ばれる仕事では、職員が若者と雑談して関係を築く。

 大学時代は、人の成長に関わりたくて教員を目指すも採用試験に合格せず、若者支援の仕事に就いた。「人と人が出会い、可能性が広がる場にいられて、やりたいことに非常に近い」。プライベートでは野外活動のボランティアにも取り組み、仕事と緩やかにつながっていると感じる。

 他の相談機関から紹介される困りごとが顕在化した若者のサポートもするが、普段から雑談する中で困りごとを知ることもある。困り感に自身が気づいていなかったり、「困ってると思わないようにしよう」と頑張っていたりする子も少なくない。

 「学校の先生や親とは『タテの関係』で、潜在的に『評価される』という気持ちを持ちがち。友達とは『ヨコの関係』で、格好悪い姿を見せたくない意識が働く。助けられるより、友達の前で『大丈夫』と笑っている方が大事なんですよね。センターの職員とは『ナナメの関係』をつくります」。背負っている荷物を少し下ろしてくれれば―と、1人になった時などに声をかけ、本音を打ち明けてくれた時に話を聞く。

 もう一つの役割は、挑戦や小さな失敗の機会の提供だ。「正しいゴールに最短距離で行くことがよしとされる時代。だけど、あえて『やってみたい』を応援し、決定的な失敗がないよう見守り、本人の選択と決定を尊重する。無駄に見える経験は、生きる力になるはず。そういうマインドが、社会全体に広がってほしいですね」

 気になる子がいれば、「私たちにできることは」と関係各所と連携し、積極的なSOSがあれば必要な機関につなぐ。できる・できないの判断をしつつ、「君のことが気になっている」というメッセージはきちんと伝える。

 福祉や教育、心理カウンセリング、コーチング、まちづくりなど多くの要素を含む仕事。「全部ミックスしているけれど、どの分野の専門家でもない。『プロ感』がないから、安心できて話しやすい面もあるかもしれない。その立ち位置は強み」。多くの引き出しと連携先をもつ「『素人感』のプロ」が、居心地のいいオープンスペースで若者を待っている。

(フリーライター・小坂綾子)