ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

体験や出会いの場支え

2024.09.10

  • わたしの現場

猪飼 聡(いかい さとし)さん

パラスポーツ振興(24/09/10)

 障害のある人たちが、自分の生活に合わせてスポーツを楽しむ京都市左京区の市障害者スポーツセンター。ここに、次長としてパラスポーツの普及にいそしむ猪飼聡さん(60)の姿がある。センターには、プールや体育館、卓球室、トレーニング室などがあり、トップ選手から健康を気遣う高齢者まで、さまざまな人が集う。親しむスポーツの種類も思いも、それぞれだ。「障害があってスポーツをやりたい人、そしてその活動を支えたい人も、ここに来れば、何かを見つけることはきっとできる。いろんな出会いがある場所です」
 センターが開設された1988年に大学を卒業し、職員になった。当時はプールしかなく、水泳教室を担当した。パラリンピックに出場する選手たちを育て、全国大会の運営やパラリンピックの競泳日本代表監督の任務も経験した。
 最初の頃はトップ選手の育成にやりがいを感じていたが、管理職になった2012年ごろから、意識が変わってきた。同センターには、さまざまな思いの人たちが集う。利用者は何を求めているのか、スポーツの裾野を広げるにはどうすればいいか、という部分に目を向けるようになった。

放課後等デイサービス「ぱらすぽ」の子どもと談笑する猪飼聡さん(京都市左京区)

 利用者の年齢層は、時代とともに変化している。高齢化が進み、「スポーツがやりたくて」というよりも、「病院ですすめられて」「健康のために」通い始める人も目立つようになった。「最初は積極的な気持ちではなくても、通ううちに仲間ができて楽しくなってこられる」。人とのつながりができ、居場所になっている人も多い。
 放課後デイサービスの活動として、知的障害のある子どもが利用することも増えた。センター内にも放課後等デイサービス「ぱらすぽ」を開設し、空いている時は施設を使うことができる。ただ、若い世代の利用は減っている。「ネット環境が普及して楽しいことが他にあるせいか、なかなか若者にスポーツの魅力が伝わらない」。毎年開催される全国障害者スポーツ大会に参加する選手の発掘も大きな仕事で、若者にスポーツの魅力を感じてもらえる方法を模索している。
 「障害のある人のスポーツが一般的なスポーツと違うのは、機会をつくらなければ広がらないところ」。実感しているのは、地域のスポーツ振興や体験してもらえる機会を増やすことの重要性だ。イベントも開催するが、センターだけがにぎわったらいいわけでもない。「来られるのを待つのではなく、まずは地域でスポーツに親しんでもらうことが、センターの大きな役割」。センターを拠点に、各地域にサテライトをつくる意識で、地域の団体とのコミュニケーションにも力を入れる。
 もう一つ感じるのは、「支える人の力が欠かせない」ということだ。健康や安全に配慮してスポーツの魅力を伝える障害者スポーツ指導員や、登録ボランティアが増えてくれることも願う。「支える活動に関心のある人は、スポーツの経験がなくても、ぜひ関わってほしい」。地域で多くの人がパラスポーツに親しみ、同センターは活気にあふれる。そんな日常を思い描いて、日々奮闘する。(フリーライター・小坂綾子)