ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

令和6年度 京都新聞福祉賞・福祉奨励賞 地域のため 未来のために(特集)

2025.01.27

  • 京都新聞福祉賞・京都新聞福祉奨励賞

 地域社会の福祉の向上に大きな功績があったとして、京都新聞と京都新聞社会福祉事業団による、令和6(2024)年度京都新聞福祉賞に1氏と1団体が、京都新聞福祉奨励賞に3団体が選ばれた。27日午前10時から京都新聞文化ホールで開かれる贈呈式を前に、受賞者と受賞団体の取り組みやその思いを紹介する。

福祉賞 1氏1団体

花園教会水族館館長 「NCMジャパン」京都事務所代表 篠澤俊一郎さん

子らの自立心育成に力

 外来種を中心に淡水魚や爬虫(はちゅう)類など約190種類を飼育する「花園教会水族館」を運営しながら、子どもの学習や居場所を支援する子ども会の開催、NPO法人「NCMジャパン」京都事務所代表として、ひとり親などの事情を抱える貧困家庭へ物資支援を行う。
 日本ナザレン教団花園キリスト教会牧師。大叔父、父が牧師の家庭に生まれた。任天堂社員から牧師に転身した2010年、フィリピン南部の島で宗教紛争によって絶対的貧困にさらされる子どもの姿を目にし、青少年育成に力を注ぐことを決意した。
 水族館は12年、ザリガニの飼育から始まった。来館した小学生の「生きている魚を初めて見た」という言葉に、貧困による格差を実感。館内の公開は無料にこだわり、生き物の世話は子ども会の子らで担う。卒業生には沖縄県の美(ちゅ)ら海(うみ)水族館に就職した子も現れた。
 子らに願うのは「自立した心と固定観念にとらわれず学び合う姿勢」。現場主義を信念に、子どもの居場所に明かりをともし続ける。(44歳、京都市右京区)

子どもの支援に力を注ぐ篠澤さん(京都市右京区・花園教会水族館)

京都いのちの電話

生きづらさに寄り添う

 1982年に開局、85年から40年間、孤独や不安を抱える人たちの「死にたい」「消えてしまいたい」といった思いを24時間体制で受け止めてきた。事務局長の鈴木工さん(70)は「いのちの電話は人の生きづらさに寄り添い、命を支える最後のとりでだ」と強調する。
 相談件数は月1600件に上る。「手首を傷つけた」「今から自殺する」といった切迫した状況もしばしばある。家族の悩みやハラスメントの苦しみのほか、子どもからはいじめや虐待のSOSも届く。
 ボランティアの相談員が主に2人体制で電話を受ける。質問は最小限にとどめ、心の叫びにひたすら耳を傾ける。鈴木さんは「負の感情を助長しないよう、受け答えには細心の注意を払う」と話す。
 京都府内の自殺者数は近年増加傾向にある。「人と人とが支え合う社会なら、自殺は起こらないはず。悩みに寄り添い、言葉の裏側にある『生きたい』という思いを感じ取ることが私たちの役割」と力を込める。(京都市内)

不安や孤独を抱える人からの相談電話に耳を傾ける相談員

福祉奨励賞 3団体

レモネードスタンドPhilia(フィリア)

小児がん理解の輪広げる

 小児がん患者の支援のために手作りレモネードを販売し、売り上げを患者の家族会などに寄付している。京都市内の催しや全国の教会を月1、2回訪れて出店し、患者の置かれた状況や困りごとを伝えることで、小児がんへの理解と支援の輪を広げている。
 代表の同志社大4年稲田莉子さん(22)は高校2年で脳腫瘍が見つかり、約1年間の闘病生活を送った。神学部に入学した後、著しく体力が落ちていた稲田さんをそばで支えた仲間から「小児がんのためにできることはないか」と声が上がり、2023年5月に団体を立ち上げた。メンバーは1、2年生や他大学に広がり、26人が活動している。
 日本では年間2千~3千人が小児がんにかかり、治療後も成長や発達の異常など晩期合併症のリスクと向き合っている。同大大学院で病児の精神的なケアについて研究する予定の稲田さんは「病院訪問など対面での支援や他団体との協力にも取り組み、子どもたちを励ましたい」と話している。(京都市上京区)

レモネードを手渡すレモネードスタンドPhilia代表の稲田さん(右)=京都市上京区・日本キリスト教団洛陽教会

コミュニティ・スペースsacula(サクラ)

幅広い事業で若者を支援

 京都市内で2カ所の拠点を運営し、子どもや若者が安心して過ごせる居場所を提供している。気軽に集える食堂やスペース、若年女性の自立を支えるシェアハウス、就労・相談サポートなど幅広い事業を展開。子どもや若者が自分らしく社会へ羽ばたけるよう、そっと背中を押している。
 2016年、社会福祉士の木村友香理さん(33)が設立した。きっかけは、児童館や学校で働く中で耳にした「今日行ける場所が欲しい」という若者の声。家庭や対人関係などに問題を抱えつつも、公的支援からこぼれ落ち、行き場をなくす子も多かった。「集うことでさみしさが小さくなれば」。そんな思いで居場所を作ってきた。
 22年には下京区にスタッフが常駐するコミュニティーカフェを開設し、子育て世代や高齢者にも利用が広がる。「専門性より関係性。支援対象としてではなく、その人を丸ごと見ていきたい」と木村さん。それぞれの気持ちやペースに寄り添い、小さな声に耳を傾け続ける。(京都市西京区)

居場所でくつろぐ子どもたち(京都市下京区・すずなりランタン)=提供

Reframe(リフレーム)

自分らしくいられる場に

 不登校が増える中、小中高生が自由に過ごせる居場所をつくろうと、2021年に「くらら庵」を開設。フリースクールの機能を持たせつつ、学校へ通う子も放課後には訪れるなど多様な子どもたちが自分らしくいられる場を目指して活動している。
 平日は毎日開き、低料金で出入りも自由な居場所づくりを重視する。これまでに15校から利用が出席扱いとなる認定を受ける一方、農業やキャンプといった体験活動、地域交流や子ども食堂にも注力している。23年からは感覚過敏などにぎやかな環境が苦手な子のために少人数で過ごせる「ゆらり庵」も運営し、昨年度は全体で延べ約3千人の利用があったという。
 「外に出たい、誰かと遊びたいと思った子たちが、ここで元気になり、旅立っていく場所になってきている」と手応えを語る代表理事の朝倉美保さん(45)。「学校に戻ってもいいし、戻らなくてもいい。好きなことや夢が見つかる場所になれば」と願いを込める。(京都市中京区)

子どもたちが思い思いに過ごす「くらら庵」を運営する代表の朝倉さん(中央)=京都市中京区

推薦のことば 永田萠 選考委員

 選考を通じて、あらためて世の中には立派な方が多くおられ希望がもてると思いました。奨励賞は、キャリアも年齢も若く、福祉賞と明確に違いがあり奨励賞を設けられて本当に良かったと思います。一方、福祉賞は、長い時間をかけて、丁寧に地道な活動をされた方々に光があたりました。受賞された皆さまに心よりお祝い申し上げます。

 【福祉賞】
 篠澤俊一郎さんが教会の牧師、水族館の館長、NPO法人の代表といういくつもの立場から、独自の視点で活動されていることに感嘆いたしました。貧困、虐待などさまざまな困難をかかえる子どもたちへの取り組みで特に評価されたのは「食術支援」です。中高生が料理の「術」を体得し、その次に「食べてもらう」喜びを味わう。これは必ず将来への希望につながるものと確信します。
 社会福祉法人「京都いのちの電話」による42年間という長きにわたる尊い活動は、どれほど多くの「自殺願望」を「生きる望み」に変えられたことかと思うと、あらためて尊敬の念を強くしております。「傾聴する」という行為は、聞き手に強くしなやかな精神力を求めるものですが、それがボランティアの相談員によってなされていることにも、深く敬意を抱くものです。
 【福祉奨励賞】
 「レモネードスタンドPhilia」は小児がん患者への支援と学びのために設立されました。ご自身も小児がん患者だった同志社大学生の稲田莉子さんが先頭に立って活動されています。仲間の大学生たちとレモネードを販売することで得た収益を寄付する行為が、若者らしくとても爽やかです。審査員一同、今後の活躍を期待しています。
 NPO法人「コミュニティ・スペースsacula」の代表、木村友香理さんたちが運営される秘密基地「すずらん」やカフェ「すずなりランタン」は、魅力的な名前の通り、多くの若者が集う場所です。注目したいのは、生きづらさを感じる若者たちへの就労体験の提供や無料のカレーチケットの配布です。地域の団体、組織ともよく連携されていて、今後ますます活動が必要となると評価を得ました。
 朝倉美保さんが代表を務められるNPO法人「Reframe」は、不登校や生きづらさを感じる子どもたちのための「くらら庵」を運営。子ども食堂や書道教室も開催されていて、利用者の心安らぐ居場所となっています。その取り組みは高い評価を得てフリースクールとして認定されており、子どもたちの未来を見つめ、今必要なことを実現する力に敬意を表するものです。

選考委員 (敬称略)

川村 妙慶 真宗大谷派僧侶
小山  隆 同志社大教授=委員長
城  貴志 NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長
永田  萠 京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長
森田美千代 一般社団法人京都障害者スポーツ振興会副会長