ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

生み出す背景にも光当て

2025.02.11

  • わたしの現場

小川 俊一(おがわ・しゅんいち)さん

障害者の芸術作品を社会に(25/02/11)

 障害のある人の作品を常設展示するギャラリー「art space co-jin(アートスペースコージン)」が2016年1月、京都市上京区河原町通荒神口上ルにオープンした。開設前の15年夏から小川俊一さん(48)は企画や運営に携わってきた。
 「作品が発するエネルギーとダイナミズムをまず大事にしたい」という思いは今も変わらない。
 嵯峨美術短大(京都市右京区、現嵯峨芸術短大)専攻科で音楽や映像などを活用する現代美術のミクストメディアを学んだ後、表現者の立場から発信した。
 3月30日まで開催中の「しもむら名作劇場ギ」と題した企画展では、舞鶴市の福祉施設に通う下村将大さんが、夕暮れの町でハットをかぶった人物がたたずむ姿をシルエットで描いた作品などが並ぶ。物語の一幕を思わせるような独自の世界を生み出している。
 小川さんによると、作者は画題の意図やタイトルを言葉で説明しないという。「先にどんな展開が待ち受けるか、見る人が思い思いに物語を想像していく余地が無限に広がっているのです」

作品のエネルギーをまず伝え、生み出される背景についても映像で伝える小川俊一さん(京都市上京区)

 ギャラリーを初めて訪れる立場に立てば、作品にタイトルがなく、制作意図の解説がないことにも戸惑う人があるかもしれない。
 障害者の芸術作品は、フランス語で「生の芸術」を意味する「アール・ブリュット」という言葉でとらえられてきた。作者は美術専門教育の約束事や公開を前提にした評価、マーケットでの流通を意識せずに制作していく。
 「作品を生み出す背景として、作者の『日常の営み』を、映像で補い伝えることに力を入れています」。そう小川さんは説明する。
 今回の展示映像では、作者が油性ペンや色鉛筆系のペン、定規を用いて描いていく姿だけでなく、休憩時間の過ごし方へのこだわりも淡々と映し出される。完成した作品を作者自身が優しいまなざしで見つめる姿もとらえている。
 別の企画展でも、粘土造形を中心とした立体作品が生み出される背景として、豊かな自然に囲まれたアトリエで施設利用者の気が向くままのびのびと作品が制作されていく空気感が伝わってきた。映像を見た後に再び鑑賞すると、息苦しい現代社会の時間上の制約からつかの間でも離れることができ、深呼吸をしたように心地よくなることを取材者も実感した。
 企画展ごとにスタッフは、制作現場へ映像機材を携えて何度も足を運び、作者に寄り添うように丹念に取材し、大量に持ち帰った作品の中から展示品を選ぶ。
 運営母体となっているのは、京都府を中心に美術館や福祉関係者などで構成する「きょうと障害者文化芸術推進機構」だ。府障害者支援課と府障害者団体連合会は、障害者による作品が多くの目に触れるイベントを開いてきた。
 心に響く作品の創作環境も、福祉施設や個人の取り組みにとどまる場合、作品が散逸してしまったり失われてしまうことを同機構は危惧する。
 「貴重な作品を系統的に整理し、後世に残していく」。小川さんらスタッフは、作品をデジタル化して保存公開するアーカイブ事業にも力を入れている。


(秋元太一)