ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

職場全体の離職率低下 会社、同僚と合うかどうか 雇用前の体験・実習の必要性を認識

2025.03.11

  • シンポジウム「障害のある人の就労支援」
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シンポジウム「障害のある人の就労支援」

 障害のある人の就労支援を考えるシンポジウム(京都新聞社会福祉事業団主催)が2月16日、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれた。障害者雇用をすすめる地元企業の経営者や働く当事者、サポートするネットワーク関係者らが講演し、取り組みが紹介された。家族や支援者も含め約110人が参加、雇用を前にした職場実習の重要さなど環境整備や支援機関との連携、現状での課題についても認識を深めた。


 初めに白石真古人・同事業団常務理事が「このシンポは、障害者が地域の中でいきいきと働き、普通に暮らしていける『共生社会』の実現を目指して15年前から開催している」とあいさつした。

 講演1部では、京都中小企業家同友会理事で、自らも重度と軽度の知的障害のある双子の高校生を持つ芳賀久和氏が、その立場を踏まえ、「障害者雇用における中小企業と地域との連携」の題で、雇用や家族支援に取り組んできた経験や思いを話した。
 芳賀さんは「同友会は人を企業や地域の中で生かしていくことを考えている。働きにくさを抱えている人たちの働きたいという思い、意欲をしっかりと応援していきたい」と話し、具体的な事例も紹介。障害者雇用では「雇用した人とのコミュニケーション力が向上し、職場全体の離職率が低下した」などの効用もあげた。

参加者からの質問に答える講師の(左から)芳賀さん、渡邉さん、当事者の3人(2月16日、京都市中京区)

 2部では職場実習や雇用を積極的に行っている清掃・ビルメンテナンス会社を経営する渡邉真規氏と同社で働く当事者が、職場体験・実習の必要性や経験、環境整備などをテーマに話した。
 昨春高校を卒業して清掃作業に従事する当事者は、午前6時半や7時に仕事の現場に入るには4時半、5時に起きることもあるが、働いたお金で趣味の爬虫(はちゅう)類や魚類を買い飼育を楽しんでいるという。「週一回の定期清掃は手順を覚えるのが大変だった。働く場では厳しいこともあるので、施設にいたほうが幸せではないかと悩んだこともあった」が「仕事を通してできることが増えてきた。30歳ぐらいには頼られる人になりたい」と意欲的に話した。

 また職場実習については「職場の人が親身になってくれているのを感じた」と振り返った。実習に関して、終盤の質疑応答で芳賀さんは「企業と当事者をマッチングする場合、雇用を求めているのか、体験しに来ているのかを職場側が見極めることも大切」と言い、渡邉さんは「採用の時には、働く能力というよりも会社に合うかどうか、他の同僚と合うかどうかを考えることが大切」と指摘した。
 さらに渡邉さんは「障害者の能力を生かせる職場とはどういうものか。重度障害者の幸せな社会とは何か。働く事例を増やしていくことで認識を変えていくことが必要では」「企業からのニーズがどれだけあるかわからないが、まず環境整備が必要。労働力がひっ迫している状況は、障害者などいろんな人が働くチャンスでもあるととらえている」と続けた。当事者は最後に「社会では障害者として見られることが多いが、可能性のある人と見てほしい。本人の自己肯定感にもつながる」と締めくくった。

(ライター 山本雅章)