2025.03.11
2025.03.11
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
立命館大名誉教授 津止 正敏
2月初旬のNHK「みんなのベスト紅白」。1969年の紅白歌合戦がリマスター版で再放送されたと知って、慌てて見逃し配信にアクセスした。紅白に特段の思い入れはないのだが、69年と聞いて心が疼(うず)いた。
この年、私は高校1年。両親と妹2人家族揃(そろ)って番組を見ていたはずなのに、全く記憶に残っていなかった。でも流れてきた幾つかの歌や幕間(あい)の時事映像に重ねて、いろいろあったこの年のことが浮かんできた。
紅組2番手は初出場のしだあゆみさんの「ブルーライトヨコハマ」。夜遅くまで頑張った高校受験、傍(そば)に置いたラジオで毎日耳にした。「時には母のない子のように」「夜明けのスキャット」もよく聞いた。

7月にはアポロ11号の月面着陸、アームストロング船長が発した名言「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」を其処彼処で口にしては悦に入っていた。持ち帰った月の石は翌年の万博で展示された。
そうだった。69年は、両親と揃ってみた最後の紅白歌合戦だった。家族でどんな大晦日(おおみそか)を過ごし、新年を迎えたんだろう。覚えてはいなかったが、「ベスト紅白」がタイムスリップさせてくれた。きっと家族みんなでゆるりとこの場を過ごしたのだろうと思うと嬉(うれ)しくも懐かしくもあって、胸が一杯になった。
随分と涙もろくなった。老いたもんだと気落ちしていると、人類学者馬場悠男さんの論考「共感能力の進化」に慰められた。年をとると涙腺が緩むのはなぜか。自分の知識や経験に照らし合わせて想像することができるからであり人に固有の同情的共感のなせる業だという。鼻水垂らすほどの涙腺の緩みを能力進化の賜物(たまもの)だとは、ありがたくてまた泣ける。
つどめ・まさとしけ氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる-男性介護者100万人へのエール-』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言-』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」-』、『子育てサークル共同のチカラ-当事者性と地域福祉の視点から-』など。