ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

働くことで自身はぐくむ

2025.05.13

  • わたしの現場

日下部 育子(くさかべ・いくこ)さん

夢実現の生き方応援(25/05/13)

 亀岡市の社会福祉法人「亀岡福祉会」が今年2月、運営する就労支援事業所などの実践報告会を同市の公共施設で開いた。第三かめおか作業所(以下「三かめ」)で働く知的障害の59歳男性が前年夏、名古屋市の動物園への希望をかなえて1泊の「ひとり旅」を成し遂げた。作業所職員による講演に市民150人が耳を傾けた。

 「職員側が決めたりそばについて手助けしたりしたのではなく、想定外のことも1人で乗り越えたことは素直にうれしい」。そう話す日下部育子さんは、三かめの管理者(施設長)を長く務め、今春からは法人の事務局長や別事業所管理者も兼ねる。「(名古屋旅は)決して突然変異ではありません。夢や希望を働く意欲にしたい、という思いの実践をこれまでから重ねています」

 三かめでは毎月テーマに基づいて、みんなで考え協力して実行する取り組みを続けてきた。積み立てた工賃を原資に清水寺への日帰り旅に挑戦したグループもあれば、自分の好みでカレーや弁当を調理することを試み、「夏らしいかき氷」のテーマにはスイカの器やスイーツの組み合わせなどさまざまなアイデアを形にしてきた。

ブランド認定セレモニーで製品を説明する第三かめおか作業所の日下部育子さん=右=と笑顔の利用者(2015年、亀岡市内)

 「予定通りにできなくても違ってもいい。『こんなことがしたい』と外に向かって意志を示し、幅広く社会や生活の経験を積むことを繰り返してきました」(日下部さん)。

 日下部さんによると、もともと三かめは、法人の中でも高い工賃を得る機能と役割を担う事業所に位置付けられたという。自主製品を収める期日と仕上がりにチャレンジしたが、専門性が必要な菓子づくりのノウハウは職員にはなかった。

 手探り、見よう見まねで試行錯誤する中、大きな力になったのは行政の橋渡しを通じて知り合った専門職の力だった。菓子職人の指導でレシピの改良を重ね、包装や印刷物にデザイナーからアドバイスを得て、魅力ある商品へと形にしていった。職員も利用者も手応えへの実感が深まっていく。

 京都府が5年かけて実施した福祉事業所と専門職とのマッチングプロジェクトを経て、三かめの製品は2015年、丹波の福祉ブランド品に認定されたのだった。認定セレモニーではマイクを手に製品を説明する日下部さんの横で、「おいしいからぜひ食べて」と口にするかのように利用者が誇らしげな笑顔で製品を示した。

 製品は福祉の枠内にとどまらず高い品質が市内外から広く支持される。現在では「四季工房」と名づけた独自ブランドから、国産小麦や発酵バターを用いたシフォンケーキやクッキー、亀岡産米を焼いたあられ、ノンフライの野菜チップスなどに注文が商業施設や家庭、学校などから相次ぐ。和洋菓子づくり、公共施設の清掃や草刈りに従事する利用者へ作業所から支払う工賃は、1人月額平均4万7000円以上を確保している。

 「1人暮らしがしたい、など利用者の夢や願いが詰まった生き方を応援していきます」と日下部さん。「はたらく・つながる・はっぴぃ」―働くことで自信や意欲をはぐくむ三かめの理念は変わらない。

(秋元太一)