ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

介護しているのは誰か!?

2025.05.19

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

立命館大名誉教授 津止 正敏

 今年の厚労省の国民生活基礎調査が6月5日を基準日にして実施される。福祉行政の基礎資料を得るために行われる基幹調査だが、介護項目も入った大規模調査が3年毎に行われ、今年はその年にあたる。

 私はこの調査をもとに介護実態、とりわけ「主な介護者」の経年推移を追いながら、介護者支援に関わる研究素材として重宝してきた。直近の大規模調査(2022年調査)に記された「主な介護者」のデータに愕然(がくぜん)としたことを覚えている。

 それは、主な介護者の性別でも続柄でも同居・別居でもなかった。主な介護者の男女比は1対2で、配偶者・子・子の配偶者・父母・その他の家族を含む「家族」は57・7%、同居45・9%、別居11・8%だ。家族以外に「事業者」15・7%があった。核家族の一般化や単身世帯の増加、介護保険事業の進展の影響だとすれば、いずれもあり得る実態だ。

 驚いたのは、主な介護者を「不詳」とするものが26・0%を占めたことだった。調査を遡(さかのぼ)って調べてみれば、01年に9・6%であったものがその後15・2%(16年)19・6%(19年)、そして26・0%(22年)と20年余りで15%以上も増えたことになる。誤差の範囲とは言えない数値だが、介護をしているのが誰なのかが「不詳」とはどういうことだろうか。不気味だ。

 調査方法に課題があるのか、家族ありきの調査項目に起因するのだろうか。調査主体の厚労省はどのような課題認識を持っているのだろう。対策を講じる行政の基礎資料となるだけに、モヤモヤ感で一杯だ。

 昨年11月に京都市が定めた「ケアラー支援条例」では、「援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償でケアを提供する者」を「ケアラー」と定義し、「社会全体で支える」と宣言している。家族関係を超えたケア提供者の存在を視野に収めているのだが、上記のような「主な介護者」の変容過程を見据えた定義だとすれば、まさに先見である。

つどめ・まさとしけ氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。 京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる-男性介護者100万人へのエール-』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言-』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」-』、『子育てサークル共同のチカラ-当事者性と地域福祉の視点から-』など。