2025.05.26
2025.05.26
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
もみじヶ丘病院院長、精神科医 芝 伸太郎
当事者を地域で支える図表で、当事者を中心において、そのまわりに円形に支援者を配置するものがよく使われます。支援者としては「ケアマネ」「保健所」「家族」「市役所」「民生委員」「福祉施設」「医療機関」等が並べられます。支援会議の資料としてよく目にするタイプです。
このような図表の問題点は、各支援者がまるで均等の役割を果たしているかのような錯覚を与えることです。そこにある種のごまかしがあるように私には思われてなりません。
不謹慎を承知で、戦争に置き換えて考えてみましょう。中心には「敵軍」が置かれて、その周囲に円形に各種部隊が並べられます。つまり「最前線部隊」「後方支援部隊」「食料補給部隊」「連絡部隊」「兵器修理部隊」などが記載されるわけです。さて、この図表を見せられて全部隊が一様に満足するでしょうか。
「最前線部隊」は相当怒るはずです。「命をかけて戦っているのは我々ではないか。当面は待機の許される後方支援部隊や戦わない連絡部隊と同列に扱われるのは納得できない」と強く抗議するでしょう。当然です。最も危険な活動を休むことなく行っているのは彼らだからです。

当事者を地域で支える場合でも全く同じことが言えます。多職種連携が協議されるとき、「縁の上」ばかりに焦点が当てられがちですが、たとえば行政等がいくら協力するといっても、深夜のハプニングには対応してくれません。結局のところ、「深夜は家族だけで頑張ってくださいね」という結論になるわけです。
当事者支援で最も過酷な負担を強いられている「縁の下」が「家族」と「民生委員」であることを忘れてはなりません。ちなみに昨今はそこに「ケアマネ」も加えられつつあります。
「家族の疲弊」や「民生委員の善意」が当たり前のように前提とされる支援体制はすでに限界を超えています。これからは「地域で支える縁の下の担い手」を考えていきましょう。
しば・しんたろう氏
京都大学医学部卒。兵庫県生まれ。
1991年もみじケ丘病院。2018年より現職。専門は気分障害の精神病理学。