2025.06.02
2025.06.02
《強度行動障害》
電車内で大声で叫んだり物を投げたりする人、施設や学校で職員に噛(か)みつくなどの行為をする人を見かけて、戸惑った経験はありませんか。
強度行動障害とは、知的障害や自閉スペクトラム症などの発達障害のある人にみられる、他人や自分を傷つける行為、破壊行為などが著しく高い頻度であらわれているため特別に配慮された支援が必要な状態のことです。診断名や障害そのものの名前ではありません。
これらの行動は当事者本人にとっても苦痛であり、決してわざと困らせようとしているわけではありません。コミュニケーションの困難さや、感覚の過敏さや環境の変化への不安でパニックになるなど、障害特性による多くの困りが改善されないまま続くことで、人や場所に対する嫌悪感や不信感を高め、その結果困った行動として周囲に現れてしまうのです。

こういった行動を予防、緩和するためには、行動の背景にある原因を丁寧に理解することが重要です。生活環境や障害特性を踏まえ、その人に合った環境調整や視覚的な手がかりを用いたコミュニケーション支援を行います。また、余暇活動や意味のある日中活動で生活の質の向上を図ることも有効です。
一方、家族の身体的・精神的な負担も非常に大きく、24時間の見守りや対応、外出時の周囲の視線や理解不足により、社会的に孤立してしまうケースも少なくないため、家族に対して当事者支援について医師や福祉専門職などのチームによる継続的な助言が不可欠です。同時に、短期入所やデイサービス、ヘルパー派遣などの福祉サービスを組み合わせて利用することで、家族の負担軽減を図る必要があります。
支援者にとっても強度行動障害の対応にはかなり苦慮することが多いため、医療、福祉、教育などの関係機関が連携し、専門的な知識と技術を共有することが求められます。近年、厚生労働省では「強度行動障害支援者養成研修」を実施し、適切な支援技術を持つ人材の育成に取り組んでいます。グループホームや日中活動を支援する施設などの福祉サービスでも、専門的な支援体制の整備が進められています。
強度行動障害のある人も地域で安心して暮らせる社会の実現には、私たち一人一人の理解と配慮が不可欠です。市民の皆さんには、強度行動障害のある人の行動は障害特性によるものであり、適切な支援があれば改善、予防できることを理解していただき、街中で見かけた際も、温かい目で見守っていただければと思います。
(児童精神科医 田中一史)