ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

令和の米騒動

2025.06.16

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

 問題発言で辞職した江藤拓氏に替わって小泉進次郎氏が農林水産大臣となった。小泉大臣は、コメの店頭価格を「5㌔2000円に下げる」とし、備蓄米を随意契約で売り渡すことを言明し、量販店やネット販売業者に安価で販売することを始めた。そして、店頭では、備蓄米が「5㌔2000円」近くで販売されており、行列して買い求める様子がテレビ等で放映され、小泉大臣が、その様子を視察するなど、備蓄米の売り渡しが「価格破壊」の特効薬であるかのごとく報道されている。

 しかし、このような方法には、根本的な疑問がある。

 一つは、随意契約という手法だ。売買契約等を国が行う際には、公平性を図るために、会計法29条の3によって、一定の要件に当たる場合以外は、競争入札によらなければならないとされている。今回の随意契約が、この例外要件に該当するかどうかに疑問がある。現に、今回の随意契約は、全ての小売業者に平等に機会が与えられたものではなく、しかも、一部のネット販売業者に予(あらかじ)め協力を求め、販売後には、一部量販店やコンビニを視察するなど、特定の販売店の宣伝に等しい行動すら取っている。

 二つには、その効果である。もともとコメの年間需要量は、700万㌧といわれるが、今回の売り渡しは30万㌧に過ぎない。しかも、備蓄米と銘柄米とでは全く品物が違う。備蓄米の価格が、銘柄米の価格の動向に大きな影響を与えるとは思えない。また、小泉大臣は、備蓄米が足りなければ、輸入米でこれに充てるというが、国内の農家の保護、自給率の上昇を目指すとの農政の基本的方針はどうなっているのだろうか。

 元々、今回の騒動は、政府の実質的減反政策に大きな原因がある。

 政府は、農家が安心してコメ作りに励めるように農家の所得補償を行い、増産政策への転換を図るべきである。一方、消費者への政策としては、少なくとも食料品の消費税廃止とコメの流通過程の不合理さの是正を直ちに行うべきである。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。